2013 Fiscal Year Research-status Report
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24720128
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Research Institution | University of Kochi |
Principal Investigator |
山口 善成 高知県立大学, 文化学部, 准教授 (60364139)
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Keywords | 英米文学 / 文学一般 / 文学論 / 注釈 |
Research Abstract |
文学研究における注釈の意義について、昨年来の歴史的・理論的なアプローチにあわせて、本年度は実践的な注釈の取り組みを開始した。 歴史的・理論的な側面での成果としては、19世紀アメリカの歴史書における注釈の役割についての論考を二篇発表した。一つはフランシス・パークマンのアメリカ植民地史の文体と構成に関する分析で、数々のエピソードを一度に広げてみせるようなパークマンの文体上の特徴と詳細な注釈作業との関連性について論じた(タイトルは "Panorama and Parataxis in Francis Parkman’s Historical Writings")。もう一つはハーバード大学初代歴史学部教授ジャレド・スパークスの史料編集についての論文で、「科学」としての歴史を担保する史料研究中心の歴史記述にとって注釈がいかなる役割を持ち、またどのような問題を潜在させていたかを考察した(タイトルは "The Biographer’s (Sub-)Voice: Life, Writings and Footnotes in Jared Sparks’s Documentary History")。いずれの論考においても、注釈は単なる典拠や補足情報を掲載するだけの場ではなく、それ自体で本文とは別種の創作的な性質を持ちうるものとして論じた。 実践面でのアプローチとしては、これまで注釈が文学研究だけでなく文学教育に重要な役割を果たしてきたことを鑑み、授業の一環として注釈作業を開始した。対象テクストはMaxine Hong Kingstonの_The Woman Warrior_を選んだ。20世紀半ばの中華系移民コミュニティーについての文化的背景を中心に注釈を施し、また上述した理論面での成果をもとに、本文を創造的に補うような注釈のあり方を工夫した。成果は学内閲覧サイトに一時公開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
注釈の理論的・歴史的なアプローチについては、発表した論考を通して研究全体の概略的な枠組みを提供できたと考えている。今後はこの枠組みに照らして、個別の文学作品や注釈の取り組みについて論ずるつもりである。本研究課題を計画した当初からウラジミール・ナボコフの_Pale Fire_を考察するのが一つの目標だったが、ようやくそれに着手する段階に来た。成果は後述の国際学会で「注釈と小説の発展」の文脈から発表する予定である。 なお、これまでの考察では、西洋古典研究や聖書解釈における注釈について充分に論ずることができなかった。新たな課題として取り組みたい。 注釈の実践については、当初予定していたHenry Adamsの著作ではなく、Kingstonの_The Woman Warrior_を取り上げることになった。理由は注釈という方法がこれまで文学教育に果たしてきた役割を考慮し、まずはより現代の文学教育に近い作品で注釈の実践を試みようと考えたためで、_The Woman Warrior_はそのために最適なテクストと判断した。実際、2013年度の担当授業の一部に_The Woman Warrior_の注釈を取り入れ、成果を収めることができた。完成までにはもうしばらく時間がかかるが、これを終えたら、あらためてAdamsの注釈に取り組みたいと思う。 本年度の成果により、研究計画の残り二年の目標がより明確になったこと、また新たな課題の発見により研究全体の発展に道筋を開くことができたことから、本年度の研究は概ね順調に進展したと自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
注釈に関わる理論的・歴史的アプローチと実践的な試みを引き続き行う。 実践面では、_The Woman Warrior_の注釈の完成を目指す。著作権上の問題をクリアし、なおかつ見やすく使用に耐える方法を工夫して公開に持ち込みたい。なお、注釈の一部をまとめ大学生用の教科書のような論集に出版する計画もあるので、そのための準備も進めるつもりである。 理論的・歴史的なアプローチについては、新たな展開が進行しつつある。まず同じ文学研究の同僚との話し合いから、「注釈と文学」研究会が発足した。第1回目の研究会は中四国地区より中国文学、日本文学、アメリカ文学の研究者を集めて2014年4月19日に開催する(本稿を書いている時点で開催済み)。第2回目は西洋古典研究や翻訳研究の研究者に声をかけて、さまざまなジャンルの注釈を横断的に議論する場として発展、定着させたい。 研究成果の発表は、上記研究会の他にInternational Conference for Academic Disciplines (June 16-19, 2014, Barcelona)において "The Biography’s Double Story: Life Writing, Footnote and the Novel"のタイトルで共同発表するものと、12th International Conference for Books, Publishing & Libraries (November 8-9, 2014, Boston)において "Collect, Preserve and Communicate”: Jeremy Belknap’s Republic of Letters Reconsidered"のタイトルで発表するものが現段階で決まっている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
年度末に筑波大学アメリカ文学会にて研究発表を行う予定だったが、研究会そのものがキャンセルになったため、その分の経費が次年度繰り越しとなった。 キャンセルとなった研究会はその後、2014年7月に再スケジュールされた。繰り越した金額はその研究会参加に充てる。また、2014年度はこれ以外にも海外での研究発表を含む出張が多く予定されている。当年の助成金の多くは出張旅費に使用する見込みである。
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Research Products
(4 results)