2014 Fiscal Year Research-status Report
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24720128
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Research Institution | University of Kochi |
Principal Investigator |
山口 善成 高知県立大学, 文化学部, 准教授 (60364139)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 注釈 / 英米文学 / 文学一般 / 比較文学 / 文学論 |
Outline of Annual Research Achievements |
文学研究における注釈の意義について、本年度は歴史的・理論的なアプローチにおいて成果を挙げることができた。 2014年6月、スペイン、バルセロナで行われた人文社会学会において、伝記作品における注釈の役割や、注釈が「小説」というジャンルの発展にどのように寄与したかについて、英米文学と中国古典文学の立場から比較研究的に考察した(発表タイトルは “The Biography’s Double Story: Life Writing, Footnote and the Novel”)。また、10月に筑波大学アメリカ文学会で行った発表「歴史と変化:初期アメリカ歴史記述における時の概念」は、歴史書における注釈の役割についての論考を含み、さらに11月のアメリカ、ボストンでの発表では、その部分を発展させてアメリカ歴史学における史料の扱い方の変遷について概観した(発表タイトルは “‘Collect, Preserve and Communicate’: Jeremy Belknap’s Republic of Letters Reconsidered”)。 また個人研究の範囲を越え、本研究計画を他領域の研究者との共同研究に拡大させる可能性について、道筋をつけることができた。2014年4月、中・四国地域の中国古典文学や日本古典文学の研究者と「文学研究と注釈」をテーマに研究会を開き、研究領域によって注釈の扱いがどれほど違うかを確認しあった。6月のバルセロナで発表した論文は、この研究会の成果を一部含んでいる。共同研究の計画はその後も話し合いが続き、10月には共同で科研費申請を提出するところまで練り上げることができた。その結果、研究課題「周縁テクスト(注釈・翻訳)の自立性をめぐる歴史的・理論的研究」は基盤研究(C)として採用され、2015年から3年間、研究の分担が決まっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
注釈の歴史的・理論的なアプローチについて、本年度は発表した論考を通じてよりはっきりとした考えを提示することができた。平成27年度は研究計画の最終年度として、「注釈文学」および文学(創作)における注釈の役割について、明確な定義と理論化を行う予定である。ウラジミール・ナボコフの_Pale Fire_に関わる論文は本研究計画の集大成になるはずである。また、本年度までの研究から、注釈を事実と創作の交叉する場として捉える必要性が明らかになった。この観点から、あらたにトルーマン・カポーティのノンフィクションノベル_In Cold Blood_を取り上げる予定である。 西洋古典研究や聖書解釈における注釈の役割について、本年度は集中的に先行研究の検証を行った。この点については、あらたな成果として発表しにくい内容ではあるが、本研究課題の研究史的な意義を明らかにするためにも、引き続き取り組みたい。 教育における注釈の実践については、研究計画の2年目にキングストンの_The Woman Warrior_を取り上げて以来、実質的な成果の提示が休止している。4年目の平成27年度は再び実践に重点を置いた年度になるので、新しいテクストを用いてあらためて授業に注釈を取り入れたい。 本年度の最も大きな成果は、本研究計画が終了したあと、どのように発展させてゆくかについて道筋をつけることができたことである。平成27年度は、4年間の研究の成果をまとめる1年間であると同時に、あらたに始まった共同研究計画に有機的に接合してゆく1年にもなる。
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Strategy for Future Research Activity |
文学研究における注釈について、理論的・歴史的、および実践的アプローチを引き続き行う。平成27年度の重点は、当初の研究計画どおり、実践的アプローチに置く。具体的には通年科目「アメリカ文学演習」において、アメリカ文学の代表的な短編作品を扱う際、テクスト精読の方法として注釈を授業内容に取り入れる。成果はまず学内限定サイトにおいて受講者の間で共有し、最終的には一般に公開できる方法を模索する。また、個人研究としての注釈実践は、ヘンリー・アダムズを引き続き取り扱う。 理論的・歴史的アプローチでは、次の二つの研究発表が決まっている。まず、6月の中・四国アメリカ文学会年次大会で「伝記作家の声:Jared Sparksの歴史記述における史的客観性と脚注的想像力」と題する発表、また10月の日本アメリカ文学会全国大会で発表する「荒野とバラ:Francis Parkmanの「森の歴史」における園芸学の作用」である。前者は注釈を事実と創作の交叉する場として捉え直す論考で、後者はこれまで歴史書における注釈の役割について行ってきた研究成果の派生的な内容になる。また、9月にはジェイムズ・ボールドウィンの_Another Country_を題材に発表することが決まっている。注釈に関わる研究の成果をここでも活かしたい。 以上、本研究計画の最終年度として成果の取りまとめを行うが、これらはすべて平成27年度より始まる新しい共同研究「周縁テクスト(注釈・翻訳)の自立性をめぐる歴史的・理論的研究」(基盤研究(C))に発展するものとして取り組む。さまざまな専門の研究者との研究会を通じ、他領域の文学研究における注釈理論とたえず比較しながら成果をまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
図書を購入するにあたり、一部納品が遅れたり、注文した図書が入手不可能であることが判明したりしたことで、次年度繰越し金が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰越額は納品が遅れた書籍購入の支払い等にあてる計画である。
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Research Products
(5 results)