2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24720130
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Chiba Institute of Technology |
Principal Investigator |
山内 政樹 千葉工業大学, 社会システム科学部, 助教 (70609502)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | イギリス文学 |
Research Abstract |
17~18世紀におけるイギリス小説では、登場人物の移動そのものが描写されることが極端に少ないことがさまざまな文献からわかる。それは当時の交通事情全般が歩行者にとって、利便性に優れたものではないことから、実際に旅行や旅などをする裕福な階級の人にとって、移動の際の苦労、例えば舗装されていない道を馬車でひた走ったり、長時間の移動などの苦労が小説を読む動機とはなかなか結び付かないからであろう。もちろんこの時代で小説という高価な娯楽を楽しめるのはごく限られた富裕階級者であり、また識字率から考えても同じである。それゆえこの当時の小説は、移動そのものより、行き着いた先での様々な出来事に焦点があてられている。 しかし、『モル・フランダース』のように、移動することで物語が展開する小説も中にはある。ただしこの主人公は身分の低い掏摸が町を逃げるように点々とする過程が物語の中心である。このことからわかることは、当時の階級社会が小説にも色濃く反映されていたという事実であり、読者階級が求めるものは、現実世界で苦しめられる旅行や旅の移動の辛さではなく、目的地にあり、また、移動の苦しさを味わうのは、それがたとえ小説の主人公であっても、身分の低い卑しき労働者階級である。 現実世界と小説の世界の関係を体系的にまとめ、次の19世紀小説の足掛かりとなった一年であった。ただ、歩行と小説に描かれる庭園(の果たす役割)に関する研究に割く時間がなかったので今後の研究課題としたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
17~18世紀のイギリスの社会状況や階級社会の実態など、小説以外で調べることも多く、また膨大な数の小説を読み、それを「イギリスの歩行史」として体系立ててまとめるという作業がなかなか進まない。いわゆる正典と呼ばれている作品だけを扱うわけではなく、その線引きに苦労している。ただ、2年目の19世紀に関してはおおむね知識があるので、1年目の遅れは取り戻せると考えている。また、庭園史と歩行の研究にも少し幅を広げたことが遅れの原因とも考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
17~18世紀のイギリス小説で描かれる「歩行」表象を体系的にまとめ上げる作業がまだ完了していないので、2年目以降に継続して行う。19世紀のイギリス小説に関しては、研究者の専門領域でもあり、その遅れは十分取り戻せる。19世紀に関しては、鉄道の発展、道路整備、安価なツアーの出現、スポーツなど「歩行」に関して、現実世界では、これまで行われてきた階級で区別してきた移動手段としての枠組みが、崩壊しつつあることを踏まえて、それが小説世界でどのように表象されているのかを研究分析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
引き続き18世紀のイギリス小説、それに関する研究書を蒐集する。それから19世紀のイギリス小説、それに関する研究書を蒐集する。研究費の使用は主に小説、研究書、学会などの交通費に使う予定である。
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Research Products
(2 results)