2013 Fiscal Year Research-status Report
イギリス文化としての作家の「国際性」についての研究
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24720131
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Research Institution | Chiba Institute of Technology |
Principal Investigator |
三村 尚央 千葉工業大学, 工学部, 准教授 (90514795)
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Keywords | カズオ・イシグロ / シティズンシップ教育 / 移民 / イギリス文学 / コスモポリタニズム / ユートピア |
Research Abstract |
本年度はイギリスにおける「シティズンシップ」の実体についての調査を中心に行なった。移民たちのなかでシティズンシップを取得して帰化する移民は全体の3%というごく少数であり、シティズンシップ制度はほとんどの人々を閉め出しているからこそ機能しているのが現実であることが調査の中で明らかになってきた。この状態をクリスチャン・ヨプケはクラブの会員権のような「軽いシティズンシップ」と呼び、技能中心的な選別主義に基づくものであることを指摘している。 本研究のキーワードでもある「国際的なシティズンシップ」という一見魅力的な看板も、その実体は、自由な経営者、テクノクラート、専門家を中心とした道具主義(アイワ・オング 1999)的な「少数の移民エリート」を対象にしているにすぎないことが明らかとなった。 また、そうした特権的な柔軟なシティズンシップを享受する移民たちに対する反感がイギリス国内で高まっていて両者の断絶が広がっていることも明確になってきた。白人たちの中には移民たちが公平性のための基準(fairness code)を守っておらず、不当に多くの利益を享受しているという認識を持つものがおり、ある雑誌の調査によれば、「他の人びと」が公共サービスや給付金で不当なまでに多く恩恵を受けていると感じるか、という質問に対しては45%の人がyesと答えたという。そのような状況の中では、白人内だけでなく移民の中でも格差が広がって互いに見えない存在になっていることが推測される。前年度の調査においては中国系をはじめとする移民コミュニティ内での学力や経済力の格差が明らかとなったが、継続して行なった本年度の調査においてもイギリス国内では多様化と多文化化が進みすぎて、白人対移民という図式では捉えることが困難になっていることがより明白になったと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の研究計画では本年度は学校教育におけるシティズンシップ教育の制度についての調査を行なう予定であった。しかし実際には前年度に基礎調査を行なった移民たちに対するシティズンシップ(市民権)付与の制度についてより詳細な調査を行うことができた。本研究の計画段階ではイギリス市民内部での白人対非白人の移民という構図でシティズンシップを考察する予定であったが、本年度の調査においてそうした20世紀的な図式は2000年代においては変質しており、特権的な(グローバルな)白人および移民たち対特権を持たないものたちという露骨な「持てるものと持たざるもの」の図式を強めていることが明らかとなった。 しかし、上記のような図式を文学作品への分析に適用することまでには至らなかったので、次年度の課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
26年度は最終年度であるため、本研究の課題であるイギリスにおける「作家の国際性」の調査結果についてまとめてゆく。24、25年度の調査から移民に与えられる市民権(シティズンシップ)が表向きの寛容な多文化社会実現のためではなく、専門技術や知識に基づく「グローバル・エリート」の選別のためのものである面が明らかになってきた。こうしたモデルを文化的産物の一つである文学作品の分析へと活用することが本年度の課題の一つとなる。具体的な対象としては「国際作家」を自称する、たとえばカズオ・イシグロなどが中心となる予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度はイギリスのシティズンシップ教育についての調査を行なう予定であったが、前年度からの調査の延長として移民たちへのシティズンシップ付与制度についての追加調査を行なった。その結果シティズンシップ教育についての調査は次年度に回すこととなった。それに伴い、本年度に購入予定であったシティズンシップ教育の調査用の機器備品および消耗品を次年度に購入することとしたため。また、当初予定していなかったイギリスへの学会出張が必要となったために、その費用にも充当することとした。 本年度に行なう予定のシティズンシップ教育の調査のための機器備品および消耗品を購入する。また、9月にイギリスへの学会出張を予定している。
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Research Products
(2 results)