2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24720134
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
乙黒 麻記子 日本大学, 理工学部, 助教 (60551249)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 南海物 / 楽園表象 / R. M. Ballantyne / R. L. Stevenson |
Research Abstract |
本研究は英語圏、特にイギリス人作家が書いた南太平洋島嶼部を舞台にした作品群、いわゆる「南海物」を包括的に研究することを目的とする。期間は平成23年度から25年度の3年計画である。 24年度の前半は、19世紀中ごろの少年向け冒険小説を代表する作家であるスコットランド人作家R. M. バランタインのThe Coral Island(邦題『サンゴ島』)を中心に、Ballantyne作品における少年主人公の「女性性」について考察した論文を執筆した(「R. M. Ballantyneの三部作における"womanliness": The Coral Island, The Gorilla Hunters, The Island Queen 再考」、『日本大学理工学部一般教育教室彙報』92巻、13-23頁)。 年度の後半では、バランタインと同じスコットランド人作家R. L. スティーヴンソンが晩年に書いた南海物の研究に着手し、バランタインのThe Coral Islandとスティーヴンソン晩年の中編小説The Ebb-Tide(邦題『引き潮』)を比較する研究発表を行った(「The Coral IslandとThe Ebb-Tideに見る南海物の形成と変容」、日本英文学会関西支部第7回大会、2012年12月22日)。この研究発表については、25年度中に論文にまとめる予定である。 また、夏季休暇中(2012年8月20日~28日)はロンドンの大英図書館、及びロンドン大学付属図書館で、主に19世紀の少年向け雑誌などの一次資料を収集した。この時に集めた資料の詳しい分析はまだ終わっていないが、今後はこれらを用いてさらに研究を進めていきたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
24年度の第一の目標は、19世紀半ばごろのバランタイン作品をはじめとするイギリス植民地冒険小説や、船乗りや宣教師によって書かれた旅行記、当時の少年向け雑誌、また関連する研究書などの資料収集と多読であった。昨年の8月末のロンドン出張の際や、日本国内の書店や図書館などもで多くの文献を集めることはできたものの、それら全てを十分に読み込み、分析するまでには至っていないので、この点では目標を十分に達成しているとは言い難い。25年度は、収集済みの文献を丁寧に読み込みつつ、引き続き関連資料を集めていきたいと考えている。 ただし、研究の成果を発表し、論文としてまとめるという点では、いくらか成果を上げることができた。たとえば、24年度の早い段階でバランタインの主要三作品についての考察を論文にまとめることができた。今後はこれを糸口として、バランタインの他の作品や、彼に影響を受けた他の作家たちにも目を向け、研究の幅を広げていきたい。 24年度の後半にはバランタインとスティーヴンソンの南海物を比較し、19世紀半ばから後半にかけての時代背景の変化についても考察した口頭発表を行った。スティーヴンソンについては当初の予定では25年度に取り組むことを想定していたので、この点については一部、次年度の研究計画を先取りしてしまったと言える。 また、25年度の初頭には、サマセット・モームの代表作で、20世紀初頭の南太平洋のサモアを舞台にした「雨」(1921)についての研究発表を行う予定である。この研究は、19世紀までの南太平洋文学の前提がいかに書き換えられているかを考察するもので、24年度の研究成果を生かした内容に仕上げたい。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度の研究計画は、まずは5月末にイギリス人作家サマセット・モームの代表作であり、南太平洋の米領西サモアを舞台とした中編小説「雨」について論じた口頭発表を行う予定になっているので、この準備に全力を注ぎたい(「Somerset Maughamの"Rain"における「移動」する女たち」、日本英文学会第85回大会、2013年5月26日)。ここでは、当時の南海の島々への移動手段が帆船から汽船に代わりつつあったことを指摘しながら、それ以前の南海ロマンスや海洋冒険小説ではほとんど描かれることのなかった白人女性の表象を分析する予定である。 その他、昨年度の12月に英文学会関西支部第7回大会で行ったバランタインとスティーヴンソンの海洋冒険小説について比較した口頭発表を、論文の形で完成させたいと考えている。また、昨年の夏にロンドンの大英図書館やロンドン大学図書館などで収集した資料を用いて、スティーヴンソンがサモア移住後に書いた、南太平洋における白人宣教師についての言説(小説の他、政治的パンフレットや寓話など)についての短い考察もまとめたいと考えている。 こうした研究に加えて、前年度に引き続き、南太平洋を舞台にした作品や研究書を積極的に収集し、読み込んでいきたい。とりわけ、26年度の研究を踏まえて、現代の南太平洋圏(ハワイ、フィジー、サモア、ニュージーランドなど)の作家の作品も少しずつ収集・多読していくつもりである。その際、必要に応じて、南太平洋圏の大学図書館に資料収集に行く予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし。
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