2012 Fiscal Year Research-status Report
19世紀後半における「アメリカ詩」の確立とインターナショナリズム
Project/Area Number |
24720136
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
貞廣 真紀 明治学院大学, 文学部, 講師 (80614974)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | アメリカ文学 / 国際情報交換 |
Research Abstract |
本研究は、19世紀後半における急速な出版文化の発展、高級・大衆文化の成立、戦後の南北の和解文化(reconciliation culture)の中で形成された文学ナショナリズムの多層性を明らかにするものだが、H24年度はまず南北戦争後の出版ナショナリズムの発展について資料収集、分析を行った。具体的には、1)Herman Melvilleの南北戦争詩集を再考し、戦後の出版ナショナリズムの成立について考察を行った。さらに、2)超大西洋交流(また、中東旅行を題材に扱っているためオリエンタリズムのテーマにも深く関わる)Herman Melvilleの詩集Clarel (1776)およびBurgundy Clubを精査し、それらの作品に見られるトランスナショナルな問題の射程が国家統一というナショナルな関心と連動していたこと、また、「西洋」と「東洋」の間の「非対称的」で「時間差」のある文化交流を検証した。3)戦後の南北和解文化の中で形成されたナショナリズムに果たした「詩文化」の役割について検討するため、E. C. Stedmanの資料収集を行い、その著作に見られる「ニューアメリカニズム」の概念について調査を開始した。4)戦後のスピリチュアリズムについて資料収集と調査を開始した。その際、ネイティブアメリカン表象、ナショナリズム、スピリチュアリズムの間の関連にも着目して考察を行った。 従来、戦後から世紀転換期にかけての「アメリカ」像とその変容は散文研究を中心になされてきたが、本研究はこれまで着目されることの少なかった「詩文化」の面から解明することによって、よりバランスのとれたアメリカ文学史の再構築に貢献することを目指している。また、Melvilleの生前未出版作品であるBurgundy ClubやE.C.Stedmanの批評など、従来、研究対象から抜け落ちてきた作品にも光を当てた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は19世紀後半における詩文化のナショナリズムとインターナショナリズムの相関関係を解明する研究であり、サブ・テーマとして1)超太西洋文化交流と「アメリカ詩」の誕生 2)スピリチュアリズムの流行と超太平洋交流の2点を設定している。H24年度は、特ににHerman MelvilleのBattle-Piecesに即して出版ナショナリズムの成立について調査を進め、さらにClarelに焦点し、パレスチナやイタリアへ向かうトランスナショナルな想像力がいかに南北戦争後のアメリカの南北和解文化やナショナリズムを支えていたかについて考察を行うことができた。また、スピリチュアリズムの流行についての二次資料およびE.C.Stedmanの批評を中心に19世紀文献の復刻版を入手し、調査研究を行った。当初の予定ではH24年度にテーマ1、H25年度にテーマ2の調査を計画していたが、2つのテーマの相互関連性の強さを考慮し、H24年度から1と2のテーマの両方にまたがって調査を行った。それによって多角的にテクストの検証をすることが可能になった。 他方、同時代「詩」批評がどのような文化的土壌を形成していたかについては、全体の批評言説の傾向を結論づけるところまで調査が進まなかった。また、特に文芸批評の活動舞台は雑誌であったことから、アメリカで雑誌アーカイブの調査を行い、知識人によってどのような「アメリカ詩」文化の形成が目指されていたのかを検証する予定であったが、上述の調査の遅れもあり、予定していた渡航調査をH25年度に延期することになった。調査の遅れの主たる原因は、テーマ2の調査を前倒しし、平行して進めたことにある。そのため、研究全体の進捗具合としては計画どおりだが、H24年度に研究成果を発表することができなかった。H24年度の研究成果はH25年度のメルヴィル学会全国大会で発表することが決まっている。
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Strategy for Future Research Activity |
H24年度からの積み残し課題である詩批評の調査を継続しつつ、すでに調査を開始しているスピリチュアリズムの流行と超太平洋文化交流についての資料収集、分析を行う。スピリチュアリズムとネイティブ・アメリカン表象の関係や、Arthur Schopenhauer及びSir Edwin Arnoldなどのイギリスの批評家の活動によって媒介された、アジア宗教哲学やグノスティシズムの流行を重視しながら、大西洋交流によって生み出されるアングロサクソニズムが、移民流入や拡張主義を通じて顕在化しつつあった文化的差異を排除する一方で、伝統としては他者の文化を積極的に受け入れてきた点、つまり、文化的差異を「抽象化」「精神化」することによって白人文化内部に折りこみながら「アメリカ像」を形成してきた点を考察する。とくにHerman MelvilleのClarel(1876)以降の作品とWalt Whitmanに焦点して研究を進める。 目的達成のためにとるアプローチは(A)東洋哲学を西洋に移入したとされる同時代イギリス批評を中心に文献調査を行う。またアメリカへの渡航調査を行い、WhitmanとMelvilleに加えて、超大西洋交流の中で重要な役割を果たし、当時「国家詩人」として高く評価されていた(B)Henry Longfellowのアジア関係の資料のアーカイブ調査を行うことによって、超太平洋関係についても更に調査をすすめ、19世紀後半に見られる超大西洋交流の多層性を検証する。また、南北戦争時の出版文化の専門家である(C)Cristanne Miller教授と面談を設け、研究内容の妥当性について相談し、内容の調整を行う。(D) 成果発表として、日本メルヴィル学会全国大会での発表を予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H25年度経費は以下の3つの目的に使用する計画である。 【1】海外調査出張費:南北戦争とモダニズムの専門家であるNew York州立大学Buffalo校Cristanne Miller教授と面談を行い、研究内容の妥当性について意見交換を行う。その際、Columbia University Library(E.C. Stedman資料)、Harvard College Haughton Library(Herman Melville資料)、New York Public LibraryおよびLibrary of Congress(雑誌アーカイブ)、Longfellow Museum(Longfellow 資料)の図書館での一次資料収集を平行して行う。 【2】海外学会出張費:成果発表を予定しているのが日本メルヴィル学会全国大会(東京)および日本フォークナー協会全国大会(東京)のため、国内出張費を押さえることが可能になった。国内学会だけでなく、さらに国際的な視野にたって研究を遂行するため、11月開催予定のPAMLAに参加し、海外の研究者と意見交換を行いたい。 【3】図書取り寄せ、複写、図書購入:図書を随時購入し、最先端の超太平洋、超大西洋交易研究、セピリチュアリズム関係文献をフォローする。一時資料文献については可能な限り復刻版で初版本を入手し、入手困難な資料については、渡航調査を行うことでフォローする。
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