2012 Fiscal Year Research-status Report
20世紀後半ロシア文化における戦争の記憶表象についてのジェンダー研究
Project/Area Number |
24720145
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
前田 しほ 北海道大学, スラブ研究センター, 学術研究員 (70455616)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | ロシア文学 / 文化研究 / ジェンダー / ナショナリズム / 戦争 / 第二次世界大戦 / ソ連 |
Research Abstract |
初年度である本年度は、ソ連の覇権主義的な戦争表象を明確にするための調査・データベース作成に力を入れた。2012年4月および9月にモスクワ・モスクワ近郊の戦争記念碑・戦争博物館を調査した。比較考察のため、旧ソ連圏及び旧・現社会主義圏のフィールドワークを行い、2012年8月中国、9月アルメニア、2013年3月ハンガリー、スロヴァキア、ベラルーシを調査、資料収集を行った。この際、ベラルーシでは作家スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチにインタビューを行い、モスクワ・アルメニアでは関連する専門家と交流し、情報交換を行うことができた。 記念碑・博物館調査のほかに、戦争の記憶・表象に関連する専門書、映画、文学、絵画、ポスター等戦争をテーマにした公式文化のデータベースの作成を行った。 これらの調査と資料を分析・考察し、ソ連の女性表象のステレオタイプを抽出し、国内外で研究成果を発表した。2012年9月第4回スラブ・ユーラシア研究東アジア学会(カルカッタ)において報告を行い、研究成果を国際的にフィードバックした。2013年1月には新学術領域研究「ユーラシア地域大国の比較研究」の総括シンポジウム「ユーラシア地域大国の比較から見える新しい世界像」(早稲田大学)において、ロシア・中国の戦争記念碑におけるジェンダー構造について報告を行った。また2012年7月には新学術「ユーラシア地域大国の比較研究」第6班ほか複数の若手研究者と連携し、ロシア・中国・ベトナム等社会主義圏における戦争の記憶と表象をテーマに、「近現代戦の表象比較研究 戦争のメモリー・スケープ」研究会を組織・報告し、社会主義圏における戦争の記憶・表象に関する共同研究を模索した。なお、これらの成果の一部は、モスクワの世界文学研究所で2012年3月に開催された学会「文学とフォークロアにおけるシンボルと神話」の学会報告集(査読付)に投稿中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ロシアの戦争に関わる公式文化の資料・情報収集と専門書収集を行ったほか、比較のため、ロシア及び旧ソ連・社会主義国の戦争記念碑・戦争博物館調査を行い、データベースを作成中である。これらフィールドワークとその成果のデータベースをもとに、公的な戦争表象における女性イメージの類型を抽出・分析することができた。男性・子どものイメージとの比較、ソ連国外の旧・現社会主義国における、戦争記念碑との比較を進めることで、ジェンダーがナショナル・アイデンティティの構築に果たす役割を明らかにする見通しがたった。一部は分析・考察をまとめ、国内外の学会・研究会等で計3回の報告を行った。ロシア語圏では浸透が薄いジェンダーの観点からアプローチしたこと、日本国内では手薄である社会主義圏における戦争記憶について実証的な分析を行ったこと、そしてある程度の理論的枠組みを提示できたことが評価され、手ごたえを感じている。関連する分野の研究者と交流し、有益な情報やアドバイスを得ることができた。また論文1本を海外のレフェリード・ペーパーに投稿中である。 他方でオルタナティブな戦争表象として女性作家の作品研究も進め、ベラルーシの女性作家スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチへのインタビューを実施した。 個人での調査・研究を進めるほか、国内の研究基盤を強化するため、中国・ベトナム等社会主義体制下にある国を対象とする地域研究者との連携・協力関係を深めた。他の科研費チームと協力して、北海道大学スラブ研究センターにて、戦争表象についての研究会を開催した。共同研究の方向性と方針を確認し、今後の比較研究の協力体勢の準備を行った。 以上のように、平成24年度の研究計画は順調に実施することができたと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
①ひきつづき戦争に関する文学・ポスター・映画・演劇・記念碑・博物館に関する資料収集・フィールドワークの実施、戦争作家インタビュー、データベース作成を行う。 ②記念碑的人物像の類型化をすすめる。これと、文芸作品におけるジェンダー構造を比較し、戦後のロシア文化における戦争の記憶についての分析・考察をすすめる。 ③研究成果を国内外で発信する。これによって、国内外の関連する分野の専門家と交流し、情報交換、議論を行う。国際学会での報告、研究会組織を積極的に行う2013年4月時点で、2013年5月16-18日ポーランド、ヴロツワフ大学の国際学会での報告、10月の日本ロシア文学会本大会(東京大学)における口頭報告を予定している。報告内容は、専門家の議論・批判を反映して、練り直し、論文として発表する。 ④成果論文集を刊行する。これまで組織した国際学会のパネルや研究会の成果を論文集として刊行し、研究成果を社会に還元する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
①ジェンダー・戦争表象に関連する専門書・資料の収集費用を計上する。 ②研究成果を国内外で発表するための旅費を計上する。国際学会発表(ヴロツワフ大学、5月、2週間 ※③のポーランド調査も兼ねる)、国内学会発表(東京大学、10月、3日間)、モスクワでのラウンドテーブル開催・報告(モスクワ(場所未定)、9月、2週間※③のモスクワ調査も兼ねる)、国内で研究会開催(北海道大学、2月ないし3月、3日間) ③海外での戦争記憶・表象を調査、戦争作家へのインタビューのための旅費を計上する。ワルシャワ・ヴロツワフ(ポーランド)、ブレスト(ベラルーシ)調査、5月、2週間実施。サンクト・ペテルブルグ(ロシア)・タリン(エストニア)調査、7月、2週間実施。モスクワ・スモレンスク(ロシア)・ミンスク(ベラルーシ調査)、9月、2週間実施。 ④成果論文集の刊行費用を計上する。ネイティブチェック謝金、刊行費用 ⑤旅費を予定より抑えることができたので本年度6867円の残額が生じたが、これは次年度の旅費として使用する。
|