2013 Fiscal Year Research-status Report
ソヴィエト的主体形成における所有と交換: スターリン期の公式文学研究
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24720149
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
平松 潤奈 金沢大学, 外国語教育研究センター, 准教授 (60600814)
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Keywords | ソヴィエト / ロシア / 文学 / 全体主義文化 / スターリニズム |
Research Abstract |
今年度は、ソ連のNEP期(1921-27年)と上からの革命期(1920年代末~30年代前半)の作品における貨幣の表象に特に着目して研究を進めた。貨幣経済が活発化するNEP期に、貨幣に対する嫌悪・否定が小説テクストにどう表象され、それがソヴィエト的主体形成とどう関係しているかを考察した。こうした文化テクストは、西欧近代的主体や資本主義の否定に基づくものであるため、ソ連を議論するための準備作業として、西欧近代における貨幣経済・商品経済の発展と理性的主体の誕生の相関性についても調べた。またこの時期の文学作品についての当時や現代の批評等、周辺言説を調査するため、モスクワのロシア国立図書館と東京大学図書館で文献収集を行った。 モスクワ滞在期間中には、ソ連時代の知識人の言論活動や、資本主義化が進み中産階級が生まれつつある現在のロシアの状況について、数人のロシア人社会学者のインタビュー調査を行った。また他の社会主義文化の研究者との共同研究に参加、モスクワとミンスクで第二次世界大戦にまつわる記憶の痕跡(記念碑、博物館、ユダヤ人虐殺跡地等)をたどり、現地の歴史学者のレクチャーを受けた。その他、演劇研究者との共同研究では、1930年代半ばのソ連の文化領域(特に演劇界)における国家テロルの言説を調べ、その一部を翻訳公開、またソヴィエト社会・文化研究の先駆的著作であるアンドレイ・シニャフスキー『ソヴィエト文明の基礎』の共訳作業に加わり、同書の意義とソヴィエト文化研究の現況に関する解説論文の共同執筆も行った。これらの共同研究は、本研究の問題意識の多層化、より広い射程における研究対象の把握をもたらしており、本研究自体の進展につながっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2013年度は、モスクワのロシア国立図書館を中心に文献収集を行い、20-30年代の貨幣表象について考察するという点に関しては、予定通りの作業ができたと考える。ただ、他の共同研究がいくつか重なったこともあり、この科研の研究に関しての口頭・論文発表ができなかった。しかし、それらの共同研究もすべて本研究に直接的に関係しているので、それらから得た知見もあわせて、本研究の内容を深め、2014年度以降に発表していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、今年度に引き続き、図書館やアーカイヴでの資料収集を行うが、東アジア・スラヴ学会への参加など、研究成果の発表に力を入れたい。予算は、旅費、書籍購入費、校閲費(英語かロシア語で原稿を書いた場合)などに充てる予定。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は、他の共同研究が重なり、本研究課題に関する発表が予定通りできなかったため。 本研究の最終年度(2015年度)に日本で大きな国際学術会議(ICCEES 国際中欧・東欧研究協議会)が開催される。そこに海外の研究者を招聘して共同で研究発表することが望まれているため、その招聘のために予算を残し、海外の研究者の日本への渡航・滞在費用に充てることを計画している。
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