2015 Fiscal Year Research-status Report
日本におけるフェデリコ・ガルシア・ロルカの受容研究‐戯曲を中心に‐
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24720155
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
森 直香 静岡県立大学, 国際関係学部, 講師 (60611829)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ロルカの悲劇的世界観 / 旧約聖書の神への不信 / ロルカの青年時代の著作 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究を通して、日本人読者がフェデリコ・ガルシア・ロルカの作品の中で特に魅力を感じている点は、1)動き、台詞等の様式化と視覚効果などにみられるスタイルの新しさ、2)詩的言語、3)スペイン性、4)悲劇的世界観の4点であることが明らかになった。2015年度は、ロルカの青年時代の未刊行の戯曲の検討を通して4)について考察を掘り下げた。 この悲劇的世界観は死生観、人間の生と運命を円環的なものとしてとらえる姿勢などにおいて日本古来の思想・文化との共通点を持つが、そのような面が日本人読者を大いに惹きつけたと考えられる。このような世界観の起源としては、1)独自のキリスト教解釈、2)キリスト教以前の世界に属する原始的かつ汎神論的世界への憧れの2点が指摘できる。ロルカの青年期の作品にはすでにこのような姿勢の萌芽が見られ、作品としての完成度はその後の作品に劣るもののより直接的な形で表現されている。しかしながら、現状では青年時代の著作に関する研究はわずかで、日本においてもごく一部の作品が訳出されているのみであり、十分な考察がなされているとは言いがたい状況である。 このような状況を受けて、2015年度は青年時代の著作、特に未刊行の戯曲作品を中心に悲劇的世界観がどのような形で現れているかを検討した。その結果、その根底には旧約聖書の神への強い不信感が存在し、おもに1)旧約聖書の神の残酷の強調と救済が存在しないことへの嘆き、2)神の全知全能の否定、3)神の存在を否定する人物の登場という形で表現されていることが明らかになった。さらに、このような表現が特に顕著である3作品については翻訳を発表した(「フェデリコ・ガルシア・ロルカの青年時代の未刊の戯曲『愛について。動物たちの戯曲』『亡霊たち』『エホバ』」『国際関係・比較文化研究』第14巻第2巻、2016年、1~26頁)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ロルカ作品の大きな特徴のひとつであり、また日本人読者を惹きつける要因ともなっている悲劇的世界観について、その起源を明らかにし、さらにどのような形で青年時代の戯曲の中で表現されているかを明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度は、2015年度の成果を研究発表、論文として発表することを目指す。また、青年時代の戯曲について更なる検討を行い、原始的かつ汎神論的世界への憧憬がどのような形で表現されているか、また、ロルカの抱いていた悲劇的世界観がその後の作品でどのような発展を遂げていったかを明らかにする。
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Causes of Carryover |
2014年4月中旬から2015年3月末まで産前産後休業を取得したことにより研究を中断したため2015年度への繰越金が生じたので2015年度は主にこの繰越金を使用した。2015年度分の交付金は次年度への繰越金とする。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究期間を1年延長し(補助事業期間延長承認申請書はすでに受理済み)、繰越金を旅費(スペインでの調査、国内での学会発表)、物品費(書籍、文房具等)に充てる。
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Remarks |
「フェデリコ・ガルシア・ロルカの青年時代の未刊の戯曲『愛について。動物たちの戯曲』『亡霊たち』『エホバ』」(翻訳)『国際関係・比較文化研究』第14巻第2巻、2016年、pp. 1-26。
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