2013 Fiscal Year Research-status Report
ロマン主義時代のフランス文学と引用、剽窃、創造的模倣―ネルヴァルを中心に
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24720156
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Research Institution | Shirayuri College |
Principal Investigator |
辻川 慶子 白百合女子大学, 文学部, 准教授 (80538348)
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Keywords | ネルヴァル / 引用 / 歴史 / ロマン主義 / 剽窃 / 模倣 |
Research Abstract |
本年度は、①ネルヴァルにおける引用、剽窃、創造的模倣の問題、②19世紀フランスにおけるジャーナリズムと著作権の問題、③ロマン主義時代における作家の表象の問題に関して基礎的調査を行った。 ①に関しては、ネルヴァルの『ニコラの告白』(『幻視者たち』所収)を中心に、伝記および自伝における引用とリライトの問題を考察した。『ニコラの告白』は18世紀の民衆作家レチフ・ド・ラ・ブルトンヌの伝記であり、レチフ作品における自己引用やリライトの形式が、ネルヴァルの『ニコラの告白』および彼の自伝作品にいかに影響を与えているかという点に関して分析を進めた。自己引用という点で、これまで十分に注目されてこなかったレチフ作品(特に『人生劇』と『わが碑文』)とネルヴァルの関係を指摘したことは重要な意義を持つものだと思われる。 ②に関しては、宮澤溥明著『著作権の誕生―フランス著作権史』(太田出版、1998年)などの先行研究を概観した。18世紀における著作者の所有権の認定(1777年の裁定)を経ながらも、著作権の保護期間が著作者の死後50年と制定されるには、19世紀前半の長い闘争を経て、1866年を待たなければならなかった。その間、大衆演劇の興隆(1829年の演劇著作者作曲者協会設立はスクリーブとピクセレクールの決議による)、新聞連載小説などに代表されるジャーナリスムの隆盛と文学作品の発表メディアの拡大が重要な役割を果たしたことは周知の通りである。本年度はこの問題に関する先行研究の調査と基礎文献の収集および問題点の整理を行った。 ③のロマン主義時代における作家の表象、主に「文学」というものの概念規定や社会における文学者の位置に関しては、最重要文献であるポール・ベニシューのロマン主義四部作の内、『作家の聖別』および『預言者の時代』の翻訳に引き続き取り組んでいる。第一巻の『作家の聖別』は近刊の予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、本研究の基礎調査という点でおおむね順調に進展している。 研究実績の概要で示した①のネルヴァルにおける引用、剽窃、創造的模倣の問題に関しては、2014年2月1日~2日に開催されたシンポジウム「〈生表象〉の近代─自伝・フィクション・学知」(一橋大学大学院言語社会研究科主催)において「レチフ、ネルヴァルと過去の現前─伝記、演劇、刻印をめぐって」と題した口頭発表を行い、研究成果を報告した。また、この点に関連して、2013年9月28日に開催されたシンポジウム「文学・証言・生表象─文学研究と歴史記述研究の対話」(一橋大学大学院言語社会研究科主催)でのダイナ・リバール、ニコラ・シャピラ講演「農村における政治と文学─レチフ・ド・ラ・ブルトンヌ」の通訳を行った。 ②の19世紀フランスにおけるジャーナリズムと著作権の問題については、先行研究の調査を行った上で、問題点を整理し、さらには、この問題に関する基礎文献として、ディドロによる『百科全書』の「コピーライト」の項目、バルザックによる一連の記事(『パリ評論』1834年11月2日号「19世紀フランス作家への書簡」、『パリ通信』1836年10月30日号「文学的所有権と海賊版の問題について」、1841年3月3日に文学的所有権法改正検討委員会に提出された意見書など)、ネルヴァルにおける関連新聞記事などを確認した。基礎調査として順調に進展していると言えるだろう。 ③のロマン主義時代における作家の表象に関しては、最重要文献であるポール・ベニシューのロマン主義四部作の内、『作家の聖別』および『預言者の時代』の翻訳に取り組んでおり、第一巻『作家の聖別』(共訳)は近刊の予定である。 国外の刊行物など出版段階でやや遅れの生じている論考があるが、基礎調査は順調に進んでおり、研究成果の発表も適宜行っていると言えるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
2014年度は本研究の最終年度として、ロマン主義時代のフランス文学と引用、剽窃、創造的模倣の問題に関する研究成果の発表を中心に進めていきたい。 第一に、ジェラール・ド・ネルヴァルに関して、本年度は19世紀前半における歴史叙述と史料の引用を中心に研究を行う予定である。19世紀の歴史家や作家における文献の引用の問題を確認するために、特に「伝記」という歴史ジャンルに範囲を限定して分析を進めたい。2014年6月5日~7日には、フランス・パリで開催される国際シンポジウム「ネルヴァル―歴史と政治」(国立古文書館)に参加予定であり、「歴史と転写―ネルヴァル『幻視者たち』における引用と歴史の詩学」と題する口頭発表を行い、本研究の成果を発表する機会としたい。 第二に、本研究を総合する報告として、19世紀前半における引用、剽窃、創造的模倣の歴史的検証というマクロの視点と、ネルヴァル『幻視者たち』を中心としたミクロの個別研究の視点を交差させた形での論考を発表する予定である。 第三に、ロマン主義時代における作家の表象に関して、引き続きポール・ベニシューのロマン主義四部作の翻訳に取り組む予定である。今年度には『作家の聖別』(共訳)の刊行が予定されているが、引き続き第二巻『預言者の時代』の翻訳作業を進めていく。 なお、当初の計画では、ネルヴァル『幻視者たち』の出典調査の成果として、関連資料集の公刊を目指していた。しかし、その後、関連資料の多くがフランス国立図書館での電子化テキスト・データベース(Gallica)に収録され、閲覧が可能となった。そのため、発表形式を変更する必要が生じてきたが、資料集として公刊するのではなく、より具体的な分析を含めた論考として発表することで対応したいと考えている。
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