2012 Fiscal Year Research-status Report
広東語と台湾語の否定詞――存在否定動詞の文法化をめぐる比較対照研究
Project/Area Number |
24720170
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
飯田 真紀 北海道大学, メディア・コミュニケーション研究院, 准教授 (50401427)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 否定 / 広東語 / 台湾語 / 文法化 / 存在 |
Research Abstract |
本研究の目標は広東語・台湾語の存在否定動詞“無”の否定詞としての文法化の様相を明らかにすることにある。そこで24年度は、最も基本的な課題として、各方言における否定詞“無”及びその肯定の対応形式で存在動詞に由来する“有”の使用範囲について、述語の意味的タイプに着目し、調査・考察を行った。同時に、台湾語と同じビン南方言に属す福建省の甫田方言のような周辺方言についても、母語話者への聞き取り調査を行い、考察の補助とした。以下は考察結果である。広東語では“無”や“有”の使用が可能なのは動作動詞で表されるような時間的限定性のある動的事象のみで、時間的限定性のない状態動詞や形容詞で表されるような静的事象には“無/有”が用いられない。一方、台湾語では動的事象のみならず静的事象にまで“無/有”の使用が拡張していると見られ、甫田方言も台湾語と同じ振る舞いをする。広東語と台湾語(ビン南方言)における“無/有”の拡張性に関するこうした相違が、事象の「存在/非存在」の述べ方についての両方言のどういった差異を反映しているのかについてはさらなる考察が必要である。 また、広東語については、上述の通り動的事象にのみ“無/有”が用いられるのが原則であるが、アスペクト助詞の“到”を伴えばたとえ静的事象でも“無/有”を用いることが可能になる。(ただし、その場合は当該事象への変化の否定・肯定を意味する。)“到”は“無/有”文にしか現れることがない特殊なアスペクト助詞であることから、その機能の解明は広東語の“無/有”の振る舞いを明らかにする上で重要な課題であると思われる。そこで、本研究では“無/有+V+到”文における“到”の機能についても初歩的考察を行い、“到”は当該の事象が実現段階へと到達したことを表す機能を持ち、ゆえに実現するまでの前段階に焦点を当てる語用論的効果を持つという見解を提出した。(論文2参照)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の研究方法上の特色は、必要な言語データを母語話者聞き取り調査からだけでなく、大量のコーパスからも収集することで実証的な分析を行う点にある。コーパスは、広東語については、申請者がこれまで構築してきたものが利用可能であるが、台湾語はほとんど未整備なため、コーパス用テキストの選定に始まる一連の作業を24年度に重点的に行う予定であった。しかしながら、台湾語に関する知識や語感がまだ不十分なこともあり、台湾語のコーパス構築は遅れている。 他方で、考察に関しては、母語話者聞き取り調査から得たデータを中心にして、ほぼ予定通り進めることができた。とりわけ、台湾語と同じビン南方言の母語話者への聞き取り調査ができたことで、台湾語の現象を複眼的な視点で考察できたことは予想外の収穫であった。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの達成状況にかんがみて、今後は台湾語のコーパス構築を早急に行うとともに、台湾語の知識と語感を拡充することに特に注力しつつ、以下の計画を実行していく。 本年度の考察課題「否定詞“無”の使用範囲」をさらに掘り下げるとともに、その結果を踏まえて新たな考察課題「“無”以外の否定詞の機能」を進める。すなわち、各方言の“無”の使用範囲を明らかにしたことを受けて、次に各方言における“無”と一般否定を担う別の否定詞“不”との機能分担について考察を進める。ここではまず“無”が否定詞として機能を拡大するにつれ、本来“不”がカバーしていた領域を侵食していったという仮説を立て、その結果として各方言の“不”がどういう意味タイプの述語と結びつき、どういう機能を表すようになっているかを考察する。 また、26年度で行う予定の“有”構文の談話論的分析の準備も並行して進めておく。特に、談話論的分析についての一般言語学的知見を文献調査を通じて蓄えておく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
・24年度の3月12日に処理された物品(図書)3,761円、及び3月29日に処理されたインフォーマントへの謝金30,073円の合計33,834円が【費目別収支状況等】ではまだ反映されてないが、4月末払い予定である。 ・次年度に繰り越した分は25年6月の台湾渡航(台湾語コーパス用テキスト選定及び國際中國語言語言學學會第21屆年會での研究発表)ならびにコーパス電子化委託((中国)北京創新力博数碼科技有限公司)のために使用する予定である。
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