2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24720172
|
Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
伊藤 智ゆき 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 准教授 (20361735)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 延辺朝鮮語 / アクセント / 中期朝鮮語 / 類推変化 / 歴史言語学 |
Research Abstract |
a) 延辺朝鮮語語彙調査の実施:各動詞・形容詞の5~7活用形について,延辺朝鮮語母語話者5人を対象に,アクセント情報を含め,語彙調査を実施した。各調査項目について,異形態が存在するかどうかも逐一確認し,様々なバリエーションの情報を取得した。調査内容については,高性能リニアPCMレコーダーにより,録音(44.1 kHz,16 bitのWAVファイル)を行った。 b) 録音データの音声学的分析:録音したデータについて,音声解析ソフト(Praat,Boersma & Weenink 2011)による分析を進めた。具体的には,調査済みの語彙についてアクセントパターンを再確認するとともに,イントネーションやフォーカスの影響,文中の位置における様々な実現形に関して,考察を進めた。 c) 延辺朝鮮語動詞・形容詞アクセントのクラス分類:中期朝鮮語の動詞・形容詞語幹は,活用アクセントパターンに基づき複数のアクセントクラスに分類され,またそのアクセント分類は,語幹の音節構造と強い相関性があることが知られている。平成24年度は,まず30種以上の中期朝鮮語資料を精査し,500語程度について,各動詞・形容詞語幹のアクセントクラスを特定した。その上で,延辺朝鮮語の動詞・形容詞語幹にもそれに対応するクラス分類が見られるか,a) で述べた調査に基づき確認を行い,同様のアクセント分類が存在することを明らかにした。更に,中期朝鮮語との対応についていうと,80%程度は規則的なパターンで現れるものの,20%の語は何らかの変容を示していることを見いだした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
延辺朝鮮語母語話者複数名を対象に,順調に調査を進めることができており,高性能リニアPCMレコーダーによる録音資料の蓄積もある。また,調査した内容は,各話者ごとに整理し,入力済みである。一方,中期朝鮮語動詞・形容詞のアクセントクラスも,30種以上の中期朝鮮語文献を精査した結果,既に特定してあり,延辺朝鮮語との比較に基づく研究の基礎はできている。中期朝鮮語・延辺朝鮮語の基本的な対応関係についても,既に掌握してあり,現在,その詳細について,分析を進めているところである。
|
Strategy for Future Research Activity |
a) インフォーマント調査の継続:これまでに行った調査の一部内容について,必要に応じ再確認を行うとともに,データの追加等,補足的作業を行う。また,既に収拾した語彙について,延辺朝鮮語話者自身による使用頻度のランク付け等,付加的情報の調査を実施する。 b) 収集したデータの編集・組織化:収集した語彙資料を,見出し語(ハングル表記・アルファベット転写表記),IPAによる音声表記,意味(日本語・英語),アクセント,使用頻度,注釈(調査に際し気付いた点など)が一覧できる,辞書形式の資料にまとめる。 c) 延辺朝鮮語動詞・形容詞アクセントの通時的・共時的研究:既に調査・分類したアクセントクラスについて,中期朝鮮語動詞・形容詞のアクセントクラスとの比較を行い,延辺朝鮮語動詞・形容詞のアクセントがどのような歴史的発展を遂げてきたのか,音韻論的に分析する。 d) バリエーションの研究:収集した様々な動詞・形容詞の用例に基づき,延辺朝鮮語動詞・形容詞における類推変化について,以下の4点を明らかにする。(1) 特定の活用形を基本形にして,類推変化が生じているか。(2)もし特定の活用形を基本形にして類推変化が生じているのであれば,なぜその活用形が基本形として選択されたのか。一方,特定の活用形を基本形にして類推変化が生じていない場合,どのような要因によって基本形が変動しているのか。(3) 音節構造や,語形・活用形等の使用頻度と,類推変化の方向性に統計学的傾向があるか。(4) 言語獲得の一般的傾向との関連性は見られるか。 e) 研究成果の公開:論文・学会発表の形で公開する他,収集したデータをwwwサイト上で公開する準備を進める。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の研究計画を踏まえ,次年度の研究費は,(a) インフォーマント調査のための謝金,(b) 分析を進めるためのハードウェア・ソフトウェア購入費,(c) 学会発表・調査・研究打ち合わせのための旅費として,使用する予定である。
|
Research Products
(8 results)