2012 Fiscal Year Research-status Report
現代中国語における<可能>の言語化と意味派生のメカニズム
Project/Area Number |
24720177
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
勝川 裕子 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 准教授 (40377768)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 中国 |
Research Abstract |
本研究は中国語母語話者の動作・状態の実現―<可能>に対する認知パターンを明らかにすることを目的としており、種々の可能表現を統語的・意味的観点から考察することを通じ、現代中国語における<可能>という文法範疇をより包括的に体系化することを目指すものである。 現代中国語の可能表現としては、主にi)助動詞“会/能/可以”を用いる形式と、ii)可能補語“V得R/D”(V:動詞、R:結果補語、D:方向補語を表す)を用いる形式の2タイプが存在するが、i)タイプ内部だけを取り上げても、それぞれの用法が重複しており、また、<可能>以外にも<可能性・蓋然性>を表すなど多義性を含むことが指摘されている。このように<可能>を表す文法マーカーが複数存在し、且つ多義性を有するということは、中国語母語話者の<可能>に対する複雑な認知パターンを反映していることを示唆している。 以上のような着想を背景に、本年度はi)タイプの可能表現を取り上げ、まず可能の意味を<能力>、<条件可能>、<許可>、<認識的可能>の4タイプに分類規定した上で、助動詞“会/能”がこれらと如何なる関係にあり、どのように意味拡張しているかについて考察を試みた。上に述べたように、助動詞“会/能”はその用法が重複するケースが多く見られ、用例調査を丹念に行う必要があることから、本研究を遂行する前段階として、中国における検索サイトを利用しながら、多岐にわたる分野から大量の用例を収集し、データベースの構築に努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、談話レベルでの分析が有効であるため、一文レベルではない、コンテキストを考慮に入れた用例収集および中国語母語話者によるインフォーマント調査を重点的に行う必要がある。しかし、本年度は報告者の妊娠・出産(産休・育休取得期間:2012.11.17~2013.9.20(予定))により、予定していた国外調査を遂行することができず、インフォーマント調査および関連する分野の研究者との意見交換等を行うことができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度試行的に構築したデータベースを補完しながら、まずは<結果可能>を表すii)タイプの可能表現―可能補語“V得R/D”の生成条件とそのメカニズムについて考察していく。 “V得R/D”形式は中国語の可能表現において一大分野を占める表現形式であるが、これがi)タイプの助動詞“会/能/可以”を用いた可能表現とどのように異なるのか、中国語の可能表現がどのような派生経路をたどって分化しているのかについて追究する。 また、上のテーマを発展させ、可能表現とモダリティ(modality)の関連性についても考察する。これについては、可能研究が比較的進んでいる日本語との対照も積極的に行っていく予定である。<可能>という事態を如何に言語化するかについて、日中両語を対照させ考察することにより、中国語における可能範疇の普遍性と独自性を効果的に指摘できると考える。 得られた成果は、関連学会(日本中国語学会、中国語教育学会、日中対照言語学会など)で発表し、論文にまとめる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度遂行することができなかった中国語母語話者によるインフォーマント調査を行う。調査地は中国・北京を予定している。本研究は中国語母語話者の<可能>に対する認知パターンを明らかにすることを目的としており、複雑に分化している可能表現の使用実態、分布を解明するためには、本調査は欠くことができない。 また、談話レベルでの分析を行うため、コンテキストを考慮に入れた用例収集を重点的に行う必要があるが、データベースの構築を効率的に行うために「JGB多言語全文検索システム」(凱希メディアサービス)を導入する予定である。これを利用することで、コーパスをhtml形式のまま保存することができ、膨大な量の言語資料から必要な用例をまとめて検索、収集することが可能となる。
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