2012 Fiscal Year Research-status Report
「ひですの経」の言語的特徴によるイエズス会の言語規範の批判的再検討
Project/Area Number |
24720205
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
白井 純 信州大学, 人文学部, 准教授 (20312324)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 日本語学 / キリシタン版 / 規範性 / 活字 |
Research Abstract |
本研究の目的は、イエズス会を中心とするキリシタン版の日本語の規範性について、新出資料『ひですの経』(国字印刷本)をもとに再検討することにある。 日本語資料としてのキリシタン版が有する最大の特徴である規範性は、表記規範、用語規範の面に特に強く表れており、出版を重ねるごとにそれが徹底するという顕著な特徴をもつ。このことはキリシタンの日本語学習とその成果として広く認められてきたが、キリシタン版としては末期である1611年に出版された『ひですの経』には、そうした規範性の蓄積を裏切る特徴が多い。 その特徴とは、印刷本でありながら規範性を欠き、写本的特徴が強く表れていることである。そもそも、イエズス会の日本語の規範性は印刷本において強く認められるものの、イエズス会および信徒の写本についてはこれに反する例も多い。『ひですの経』の表記および用語の選択について写本との類似が顕著に認められることは、研究開始時点において既に予想していたが、今年度、関係写本を詳しく比較検討することであらためてこの事実を確認した。 イエズス会の日本語の規範性は、金属活字を鋳造し、活字印刷するという行為と不可分であり、使用活字の選別は、表記規範・用語規範の問題に直結している。場当たり的に木活字を作成し利用する『ひですの経』はいわば「印刷された写本」なのであり、印刷物ではあるがイエズス会の規範性が及んでいない。 今年度は以上について、「新出キリシタン版『ひですの経』からみた『太平記抜書』の刊行について」(第107回訓点語学会研究発表会)、「キリシタン語学全般」(『キリシタンと出版』(豊島正之編集・近刊))、「キリシタン文献と日本語研究」(『日本語学講座』(韓美卿編集・近刊))としてまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の主な研究の目的は、関係写本との比較をもとに『ひですの経』の基本的な性格を検討することであるが、『ひですの経』を「印刷された写本」として位置づけることで当初の目的を達成した。 より精密な比較検討の試みとして、イエズス会関係者である不干ハビアンの『妙貞問答』と『ひですの経』との関連性を探った。『妙貞問答』を選択した理由は、イエズス会関係者の写本として著名であり、不干ハビアンがキリシタン版の編集にかかわった可能性も捨てきれないからだったが、結果として直接的な関連は弱いということがわかった。 おそらくは文献相互の直接的関係よりも、印刷本と写本というより広い視野から資料群として扱い、イエズス会の日本語の規範性をとらえ直す必要があるだろう。そのことは、本研究が目指す目標にも合致している。
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Strategy for Future Research Activity |
当初計画通り、『ひですの経』の表記規範および用語規範をイエズス会関係写本と比較するが、これまでの調査で特に用語規範についての関連性が予想されるイエズス会の写本『講義要綱』を中心に調査する。 表記規範および用語規範の問題は、それが活字印刷されるという意味において物理的な問題にも関係する。出版に利用された金属活字と木活字の使用状況を正確にみてゆくことで、これまで刊行年不明とされてきたキリシタン版『太平記抜書』との先後関係が明らかになり、『太平記抜書』の刊行年の解明も期待できるだろう。このことは、イエズス会の印刷技法全体の解明にもつながるだろう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(5 results)
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[Journal Article] キリシタンの日本語学習2012
Author(s)
白井純
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Journal Title
修剛・李運博主編『新時代的世界日語教育研究 Research on the International Japanese Education of the Modern Days』
Volume: -
Pages: 240-247
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