2012 Fiscal Year Research-status Report
近代日本語のテンス・アスペクト・モダリティ体系の変遷に関する言語類型論的研究
Project/Area Number |
24720210
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
福嶋 健伸 実践女子大学, 文学部, 准教授 (20372930)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 言語類型論(typology) / アスペクト(aspect) / テンス(tense) / モダリティ(modality) / 中世末期日本語 / 日本語の変遷 / Mood-prominent language / Tense-prominent language |
Research Abstract |
1:日本語の言語類型論的な変遷を記述した(具体的内容) 研究の目的通り、日本語の言語類型論的な変遷を記述した。具体的には、古代日本語は、Aspect・Mood-prominent language(アスペクト・ムード優位言語)であり、まず最初に、アスペクトの優位さが崩れ、中世末期日本語の段階では、Mood-prominent language(ムード優位言語)になったとことを明らかにした。その後、「~テイルの発達」「動詞基本形の<未来(irrealisの一部)>へのシフト」という体系的な変化を経ることで、現代日本語のようなTense-prominent language(テンス優位言語)に、たどり着いたことを明らかにした。 2:歴史的な日本語学からの発信(意義、重要性) 日本語の言語類型論的な変遷が明らかになったので、今度は、海外に対して、歴史的な日本語の研究成果を発信できることになった。(既に、成果の一部を海外の雑誌に投稿している。ただし、審査の際のバイアスを避けたいので、ここでは、雑誌名は匿名としたい。)この点には、少なからぬ意義があると思う。 3:成果の公表 研究成果の成果の一部は、大学共同利用機関法人人間文化研究機構 国立国語研究所の研究発表会にて、「中世末期日本語のテンス・アスペクト・モダリティ体系―名詞節内にモダリティ形式が生起することをどう解釈するか―」/「中世末期日本語の従属節の階層性―南の四分類との関係―」というタイトルで発表した。また、第21回史的文法学団研究発表会(於:聖心女子大学、2013年4月27日)にて、「近代日本語の変遷をムード優位言語からテンス優位言語への類型論的変化として捉える」というタイトルで発表した。なお、これらの内容は、『日本語の複文構文』ひつじ書房(2013 年10 月刊行)に掲載される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
【日本語の変遷を言語類型論的に記述できた】 本研究を開始してまだ1年であるが、最大の課題である、言語類型論的な変遷を、早くも記述し得たことは、当初の計画以上の進展である。加えて、本研究は、近代日本語(概ね、中世末期日本語から現代日本語)の変遷を、研究対象にしていたが、考察の過程において、幸いなことに、古代日本語に関しても、言語類型論的な特徴を指摘することが可能になった。このため、課題は、「近代日本語の変遷」を研究対象とするものだが、事実上は、「日本語の変遷」を記述する研究となっている。具体的には、古代日本語は、Aspect・Mood-prominent language(アスペクト・ムード優位言語)であり、まず最初に、アスペクトの優位さが崩れ、中世末期日本語の段階では、Mood-prominent language(ムード優位言語)であったといえる。その後、 「~テイルの発達」「動詞基本形の<未来(irrealisの一部)>へのシフト」という体系的な変化を経ることで、現代日本語のようなTense-prominent language(テンス優位言語)に、たどり着いたわけである。 【理論言語学的な分析結果を投稿した】本研究は、「歴史的な日本語学の研究成果を、海外に発信すること」を目標としているが、早くも1年目にして、その研究の成果を、 海外の雑誌に投稿することができた。この投稿論文は、University of Washingtonの形式意味論(formal semantics)の研究者である荻原俊幸氏との共著である。本投稿論文の成果により、中世末期日本語の現象が、形式意味論(formal semantics)と、統語論(syntax)の理論的前進に貢献できることが明らかになった。 この点も、計画以上の進展である。
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Strategy for Future Research Activity |
年度の前半では、欧米諸語の変遷と、近代日本語の変遷を対照する。応募者は、本研究申請時、University of WashingtonのVisiting Scholarだったので、欧米諸語に関する必要な文献(書籍以外)はほぼ全て入手している。考察の際には、存在型アスペクト形式か、所有型アスペクト形式か、その両方か、という点に着眼して分析を行う。 年度の後半では、主として韓国語との異同を念頭に置き、近代日本語の当該体系の変遷の持つ意味をさらに検討したい。 年間を通して、海外の学会に積極的に出張し、最新の成果を吸収するとともに、本研究の成果を発信したいと思う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
海外への出張を考えているため、当初の計画通り、旅費300,000円を計上している。また、コンピューターでの分析を考えているため、物品費に200,000円を計上している。コンピューターの購入だけではなく、必要に応じて、文献や資料等の購入も考えている。 研究成果を広く公表するため、抜き刷り代等の料金を、その他に計上している。 これらは、全て研究計画に書いてあるものばかりであり、今のところ、大きな変更は生じていない。
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