2012 Fiscal Year Research-status Report
主格目的語に関する統語論的研究:英語と主格目的語を有する言語との比較の観点から
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24720224
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
野村 昌司 中京大学, 国際教養学部, 准教授 (60410619)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | アイスランド |
Research Abstract |
平成24年度は、まず主格目的語を持つ言語と持たない言語の統語的振る舞いの違いの1つ「長距離再帰代名詞」に関する調査を行った。主格目的語を持たない英語では見られないが、主格目的語を許す日本語やアイスランド語といった言語は長距離再帰代名詞が存在する。この長距離再帰代名詞に関するアイスランド語の研究では、統語理論だけでは解明できないとするアプローチが主流であったが、本研究において現在の理論的枠組み(Chomsky 2008)のもと、その振る舞いに統語的説明を与えた。具体的には、次の3つの点を示した。1、アイスランド語の再帰代名詞sigは解釈可能ではあるが値を持たないphi素性に値を得るために、その先行詞がAgreeの関係にある機能範疇の主要部とAgreeの関係に入らなければならない。2、sigはClitic Climbingという統語操作により、より高い位置にある機能範疇の主要部とAgreeの関係になることができる。3、subjunctive Cと非定形のCは不完全なものであり、Phase不可侵条件に従わない。これにより、再帰代名詞sigは長距離先行詞を有することができると論じた。 この研究で、英語等の言語では認められないフェイズを越えた統語操作がアイスランド語などでは可能であり、英語とアイスランド語における長距離再帰代名詞に関する差違はフェイズCの違いにあることがわかった。この研究が正しければ、主格目的語の有無に関してもフェイズを越えた統語操作の可否にあるというアプローチが考えられるようになる。 平成24年度の研究成果は、2012年9月に三重大学で行われたGLOW in Asia IXにて発表した。 また平成24年度から継続して行っている日本語の複合動詞句内における格付与に関する研究の成果は2013年6月に行われる慶應言語学コロキアムにて発表予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究を始めるにあたり、主語の明示性、主語位置の空所化、長距離再帰代名詞はそれぞれ関連性があり、目的語への主格付与の有無と大いに関連するのではないかという目算があった。しかし、長距離再帰代名詞の研究を進めた結果、主語位置の空所化の有無と長距離再帰代名詞の可否に明らかな関連性を見いだせなかった。 そのため、より多くの可能性を検証することとなり、本研究の主目的である主格付与の本質の探究とは別のところに研究時間を割くこととなった。
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Strategy for Future Research Activity |
現在の一連のChomskyによる研究は全ての操作はフェイズ単位で行われるというものである。このことを踏まえ、現在日本語の複合動詞句内における格付与についての研究を進めている。 今後は言語間の差違をフェイズが持つ特性の差違に置き、更にはそのフェイズの単位をどのように捉えていくか、具体的にはどのまとまりをフェイズと見なし、統語操作が行われるのかについて調査を進め、本研究の主要目的である主格付与の本質に迫る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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