2012 Fiscal Year Research-status Report
日本語教育におけるブレンディッドラーニングの有効性の検証
Project/Area Number |
24720243
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
古川 智樹 関西大学, 国際部, 講師 (60614617)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ブレンディッドラーニング / マルチモーダル / eポートフォリオ / 微視的分析 / 日本語教育 / ICT環境 |
Research Abstract |
本研究の目的は未だ研究が進んでいない日本語教育におけるブレンディッドラーニング(Blended Learning:以下BLとする)の有効性を検証することである。 本年度は、eポートフォリオシステムを利用した来日前教育に関する調査、渡日後の日本語教育におけるBLの利用調査、及び学習者のeポートフォリオの利用観察を行った。その結果、まず、来日前教育に関する調査では、eラーニング教材のみの提供の場合より、教員のフィードバックを加えることにより提出率がほぼ100%と大幅に改善され、その後のアンケート調査結果でも学習者は教員とのインターアクションを望んでいること、そしてeポートフォリオシステムを用いた来日前教育が来日後のスムースな教育に貢献していることが明らかとなった。次に、渡日後の日本語教育におけるBLの利用調査では、eラーニング教材に関しては先行研究と同様、課題提出率が徐々に下がり70%まで落ちたこと、課題提出率と成績の相関は平均0.6で推移し、やや相関があることがわかり、期末のアンケート調査で今後の利用率を上げるためには、問題数、システム上での教員とのインターアクションの改善が必要であることがわかった。最後にeポートフォリオの利用観察では、課題の作成、他者・自己評価、振り返り、修正・改善、蓄積の学習サイクルが、学生の満足度・達成度に加え、メタ認知能力の向上にも寄与していることがわかった。 BLは近年普及し始めた新しい教育法であり、今後ICT環境の整備、教材コンテンツの増加によりさらに普及が見込まれる分野である。本研究の成果は日本語教育における学習者のICTの使用実態の解明、そしてICTを活用したBLの有効性を見極める際の重要な情報を提供するものであり、また、今後ICTを活用したBLを行う教育機関の環境整備を考える際の貴重な資源としても広く貢献できるものであると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の最終目的は、日本語教育においてブレンディッドラーニングがどのように有効に機能しうるのか、ICT環境下における授業やeポートフォリオシステムの利用状況を、数量的分析とマルチモーダルな視点を取り入れた微視的分析を行うことによって検証し、その有効性を明らかにすることである。 本年度は調査の初年度として、この目的を達成するために、来日前事前教育に関する調査、渡日後の日本語教育におけるブレンディッドラーニングの利用調査、及び学習者のeポートフォリオの利用観察の3つの調査を行った。また、マルチモーダルな視点を取り入れた微視的分析を行うため、1年間にわたる授業の内外における学習者のICT利用のデータ収集(ビデオ録画及びインタビュー)を行い、現在はその文字化作業に移っている。 初年度では、以上の調査からeポートフォリオを用いた来日前遠隔地事前教育の活用方法と効果、1年間にわたるブレンディッドラーニングの利用状況と問題点を明らかにすることができ、微視的分析を行うためのデータ収集も問題なく順調に取得することができているため、当初の研究計画どおり、おおむね順調に進展していると考える。今後は、引き続きデータ収集と文字化作業を進め、ブレンディッドラーニングの有効性を検証していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降(平成25年度、26年度)は、本年度(平成24年度)に実施したデータ収集の手法、そして分析の枠組みを用い、さらに多くのデータの収集・分析を行っていく予定である。 具体的には、学習者の使用実態調査とマルチモーダルな視点を取り入れた微視的分析の2つを中心に進めていく。 学習者の使用実態調査に関する分析では、取得したデータをeポートフォリオシステムで事前に入力するプロフィール(性別、専攻、eラーニング経験等)、試験の成績とともに統計処理を行い、ブレンディッドラーニング環境下における日本語学習者の主体的評価だけでなく、どのような学習者が積極的にシステムを利用し(あるいは使用せず)、肯定的/否定的評価をしているのかを明らかにしていく。また、さらにデータ協力者を増やし、継続してデータ収集を行う。 次にマルチモーダルな視点を取り入れた微視的分析では、取得したデータから随時文字起こし、非言語行動の記述を開始する(微視的分析に用いるデータ収集は25年度をもって完了させる)。そして、文字起こし、非言語行動の記述ができた段階で分析に入る。分析は会話分析に代表される微視的観察法を用い、学習者間のやりとりをマルチモーダルに分析する。そして、学習者がeポートフォリオシステムをどのように利用して日本語の学習を行っているのか、そしてどのようなやり取りがそこで行われているのか、また、そのやり取りは日本語の学習に効果的に働いているのか(あるいは学習の妨げになっているのか)を明らかにしていく。 そして、日本語教育及び外国語教育における学習者のICTの使用実態の解明、そしてICTを活用したブレンディッドラーニングの有効性を見極める際の重要な情報を提供できるよう、本研究の分析の結果、成果を学会、セミナー等で発信していく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は初年度であったため、観察録画・録音データの文字起こしを調査者メンバーが行い、記述方法を確立する必要があった。そのため、予定していたよりも外部に委託する文字化の費用がかからなかった。次年度からはより多くのデータを収集するため、外部への文字起こしの委託が増えるため、本年度の費用は主にこの用途で使用する予定である。また、継続的にインタビューも行うため、その謝金等にも使う予定である。
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Research Products
(8 results)