2012 Fiscal Year Research-status Report
共通語としての英語の会話分析に基づくコミュニケーション能力モデルの提案と教育提言
Project/Area Number |
24720273
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
小中原 麻友 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 助手 (80580703)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 共通語としての英語 / 会話分析 / コミュニケーション能力 / 談話・語用論的特徴 |
Research Abstract |
平成24年度は、共通語としての英語(English as a Lingua Franca、以下ELF)のコミュニケーションにおける談話・語用論的特徴を明らかにすることを目指し、1.既存研究の徹底的文献調査と、2.会話の録音調査データ(以下、会話データ)の分析を実施した。その他、3.アンケート・インタビュー調査の実施を計画していたが、上記の目的達成には、1、2の重要度が高いと判断したため、3については次年度以降に実施することとした。以下、上記2項目の成果について具体的に報告する。 1.既存研究の徹底的文献調査:前年度までの研究により、言語知識の運用能力がコミュニケーション能力の重要な構成要素であることを明らかにしたが、これに基づき、24年度は、会話の構造とシステムを解明する会話分析の理論的背景とその手法について、重点的に文献調査を実施した。また、ELFの談話・語用論的特徴に関する研究の文献調査も実施した。その結果、これまでの先行研究では、ELFの会話に、協力的・合意志向的な特質があることを当然のこととして扱っていたが、この点については、データの分析方法を含め、批判的に検討する必要があることが明らかになった。 2.会話の録音調査データの分析:事前の試験的研究で用いたディスカッション形式の会話データを継続して分析すると同時に、前年度末に収集した自由会話形式の会話データの分析を進めた。分析には、会話分析的手法を用い、英国の大学に在籍する異なる文化的背景をもつ留学生同士が、言語知識を戦略的に用いて相互理解を図る過程を明らかにした。具体的には、特に、相手話者の発話の言い換えと、相手話者との話の中での重なりや遮りに焦点を当てた。前者は、共通理解を促進する機能を果たし、後者は、実に様々な使われ方をしているが、積極的な会話参加と、効率的に会話を進める機能を果たしていることが明らかになってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ELF使用者に求められるコミュニケーション能力を検討するためには、言語知識の量や質だけでなく、その知識の運用能力を精査することが重要であるが、本研究は、自由会話形式を採用して会話データを収集したことにより、より自然発生的な会話においてELF使用者が相互理解を図るためにどのような談話・語用論的戦略を使用しているかについて、ある程度、明らかにすることに成功した。また、会話分析の既存研究の主流である一対一の会話ではなく、グループの会話を多く分析することにより、会話参与者らが積極的に相互理解を構築する過程を描写することに成功すると同時に、英語母語話者同士の会話で報告されている会話構造とシステムが、ELFの会話においても、ある程度観察されることを明らかにした。しかし、一方で、会話データの文字化に慎重を期する必要があることが明らかになった。会話データを概観した結果、発話の重なりや遮りが非常に多く観察されることが明らかになった。これは、この現象がELFの会話における特徴と位置づけられる可能性を示唆しているが、文字起こしの質が直接分析・考察結果に影響するため、文字化には最大限の注意を払う必要がある。24年度中、音声、および動画の形式で収集した会話データを効果的に使用し、会話データを文字に起こす作業を随時進めてきたが、グループの会話という特質もあり、正確な文字起こし、およびその分析にはもう少し時間を要する。この会話データの分析による談話・語用論的特徴の解明の重要度が高いと判断したため、アンケート・インタビュー調査は、翌年以降に実施することとした。以上のことより判断して、24年度の研究計画はやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
ELFの会話の特質とされる協力的・合意志向的傾向を批判的に検討し、会話データの多面・多角的分析を実施するために、会話分析的手法に加え、談話分析的手法も一部取り入れることを計画している。コミュニケーション能力(特に言語知識の運用能力)の重要な要素と考えられる談話・語用論的特徴に焦点を当て、分析・考察の向上を図る。24年度に引き続き、発話の重なりや遮りについて分析を実施するが、今後は特に、会話の流れを統制する機能を持つものについて精査する。また、まだ十分に解明されていない、例えば、発話始めに使用される逆説の接続詞butの会話の相互行為における機能などについて解明することを計画している。さらには、会話データの分析結果の信頼性の向上を図るために、言語使用に関するアンケートやインタビュー調査を実施する。また、同様にまだ明らかにされていないELF使用者の言語使用とアイデンティティについては、ゴフマン理論の構造と主体の概念などを使用することを検討しており、これにより、会話の相互行為におけるELF使用者の会話参与者としてのアイデンティティの交渉過程を解明する。上記の分析・考察を促進するには、文献調査も継続して実施して行くことが重要である。よって、ELFの最新研究や会話分析的手法を取り入れた最新研究の実態を把握し、その問題点を洗い出すと同時に、談話分析的手法の既存研究や、ゴフマン理論や社会文化論を背景とする言語使用とアイデンティティに関する文献調査もさらに進め、研究のさらなる深化を図る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度からの繰越額46,267円に25年度の交付予定額500,000円を合わせて研究推進のために効率的に使用する。24年度に明らかになった会話データの文字化に関する問題点を重点的、且つ迅速に解決するために、文字起こし業者や会話データ確認作業の謝金へ充てると同時に、必要に応じて、コーパスや質的分析ソフトの購入も検討して、研究のさらなる促進と展開を図る。また、研究の深化を図るための文献調査のための費用と、分析結果から得られた知見をまとめ、国内外の学会や学術論文で積極的に公表するための必要経費にも充てたい。
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