2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24720290
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
蝦名 裕一 東北大学, 災害科学国際研究所, 助教 (70585869)
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Keywords | 慶長奥州地震津波 / 日本近世史 / 歴史災害研究 / 盛岡藩政史 / 仙台藩政史 / 相馬中村藩政史 |
Research Abstract |
平成25年度は、前年度に引き続き、慶長奥州地震津波に関する歴史資料を調査し、岩手県立図書館、もりおか歴史文化館における歴史資料の追加調査を実施し、宮古市史編さん室における宮古市史編さん時に収集された史料の調査から、慶長奥州地震津波に関する『小本家記録』などの史料を確認することができた。福島県相馬市において相馬市史編さん室が収集した海東家文書などを閲覧し「小高山同慶山記録」など、慶長奥州地震津波について『新収日本地震史料』に掲載されていない新たな歴史資料の情報を得ることができた。 フィールドワークでは、大船渡市三陸町吉浜根白の浄土真宗寺院・真称寺が所蔵している歴史資料について、古文書全点をデジタルカメラで撮影し、中性紙封筒に収納する保全作業を実施し、同寺が慶長年間、ビスカイノの到達以前に同地域に存在していたことを確認した。また、「ビスカイノ報告」についてより精緻な翻訳文を作成するとともに、ビスカイノが慶長奥州地震津波に遭遇した直後に到着した越喜来村において、慶長期より政宗に仕え、江戸時代にわたって同村の村役人をつとめていた旧家の場所を特定することができた。同様に、巨大津波の伝承が残る岩手県田野畑村羅賀や宮城県多賀城市でフィールドワークをおこない、測量をおこなった。 研究成果の発表については、第30回歴史地震研究会大会において「ビスカイノ報告」の新たな翻訳の意義とそこからの慶長奥州地震津波の分析について、第1回前近代歴史地震史料研究会では大船渡地域をはじめとした気仙地域における慶長奥州地震津波関連の史料の分析成果を報告した。また、他地域の事例として、三陸海岸と同様にリアス式海岸である三重県尾鷲市周辺と、和歌山県広川町の濱口梧陵記念館で歴史地震津波の記録と現状について見学調査をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は、岩手県・宮城県・福島県における歴史資料調査によって、『新収日本地震史料』に掲載されている地震津波記録の原本やその写し、また「小高山同慶山記録」のように慶長奥州地震津波について、『新収日本地震史料』に収録されていない新たな地震津波記録を収集することができた。特に、宮古地方の歴史記録については、宮古市史編さん事業の際に集積された膨大な歴史資料の写真から、同地域における歴史災害や開発に関する多くの情報を得ることができた。この中には従来慶長奥州地震津波の基礎資料とされてきた『宮古由来記』に先行する『小本家記録』などが含まれる。これらを含めた分析によって、慶長奥州地震津波について新たな知見が得られる可能性が高まった。 フィールドワークによる地域調査やGPSによる高度測量については、岩手県宮古地域、大船渡地域、宮城県気仙沼地域における調査を実施した。これにより、慶長奥州地震津波に関する歴史資料の記述について、その信憑性を裏付ける地域情報を得ることができた。また、岩手県立図書館が所蔵する岩手県沿岸地域の古地図や明治期の地籍図について、慶長奥州地震津波の記録や痕跡が残る地域に関するものについて画像データを収集することができた。これらの測量データや歴史地形の復元作業から、慶長奥州地震津波の被害についてより詳細に分析していくことが可能となった。 一方で、歴史情報の収集を優先的に展開した結果、集積したデータの解読・分析については、真称寺文書の目録化や一部の資料の解読を実施し、また『ビスカイノ報告』に記載される越喜来村・吉浜村の古絵図についてトレース作業を実施したものの、全体としては若干の遅れが生じているため、平成26年度は歴史資料の翻刻と歴史地形復元作業について重点的に推進していくことにする。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、これまで収集した歴史情報についての解読・分析作業を実施する。特に、『新収日本地震史料』に掲載されていない新出史料や、同著に掲載されている史料について、地震発生前後の関係部分について翻刻作業を実施し、新たな歴史情報や慶長奥州地震津波からの被災地の復興について分析する。また、収集した歴史情報の分析から、従来の慶長奥州地震津波に使用されていた歴史資料の情報源を分析し、それらの記載の信憑性を分析する。歴史地形の復元作業については、これまで集積した古地図や地籍図のデータをもとに、慶長奥州地震津波の伝承や痕跡が残る地域について重点的に歴史地形を復元するための絵図トレースや3D再現作業を実施する。これにあたっては、画像処理を専門に取り扱う業者への委託や、古文書解読能力をもつ学生などの協力を得ながら研究を推進させていく。 フィールドワークによる歴史情報については、江戸時代に成立した歴史資料について、引き続き新出史料を探索し、デジタルカメラ撮影作業を実施する。併せて、明治三陸大津波の直後に成立した山奈宗真著『岩手県沿岸大海嘯取調書』などに記載されている、明治以前に三陸地域に残存していた歴史津波の伝承を調査し、慶長奥州地震津波との関連性について分析する。併せて、慶長奥州地震津波の痕跡地についてGPSによる高度測定も実施する。この作業については、東北大学災害科学国際研究所の津波工学研究者と連携しながら研究を推進させていくことにする。 なお、平成26年度は本研究の最終年度となることから、平成24年度から実施してきた慶長奥州地震津波に関する歴史資料の翻刻原稿やデータについて報告書の刊行することを目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度、25年度においては、慶長奥州地震津波に関する歴史情報を収集するため、岩手県・宮城県・福島県での歴史資料調査を実施したことにより、予想以上の分量の歴史資料が収集できた。一方、歴史資料の詳細な分析によるデータ化およびこれに基づく歴史地形復元のためのグラフィック作業などについては、大船渡地域における絵図のトレース作業に着手したものの、それ以外の大部分が未着手の状態となっている。また、真称寺における歴史資料保全活動については、NPO法人宮城歴史資料保全ネットワークから機材・物資の借用・提供をうけることができた。これにより、歴史地形復元に係る一連の物品費・人件費および保存活動に関する物品費について次年度使用額が生じた。 本年度は、報告書作成にむけた歴史資料の解読作業や、歴史地形のグラフィック復元などの作業を本格的に展開する予定である。これにあたっては、業者に対する委託や古文書解読能力をもつ学生らの協力を得る予定であり、これに係る謝金の支出を計画している。
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Research Products
(6 results)