2012 Fiscal Year Research-status Report
中世禅宗寺院における農業知識に関する研究―抄物史料の活用を通して―
Project/Area Number |
24720291
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
川本 慎自 東京大学, 史料編纂所, 助教 (30323661)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 日本中世史 / 禅宗史 / 農業史 / 禅籍 / 史料調査 |
Research Abstract |
本研究は、中世禅宗寺院領の展開の背景の一つとして、荘園における生産活動、とくに農業についての知識を禅僧がいかに共有・蓄積していたかを明らかにしようとするものである。 本年度においては、その基礎的作業として、禅宗寺院内で行われた漢籍・禅籍の講義の筆録である抄物史料の所在状況の把握につとめ、その日本史史料としての研究資源化に向けた検討を行った。また、この作業をうけて、京都および関東近郊における禅宗寺院や、大学等の機関が所蔵する禅籍・抄物の史料調査を行った。とくに京都市内の禅宗寺院については、これまでに調査の行われていない寺院について他の科研等の研究グループと合同で調査(目録作成)を行った。 本年度の調査・研究のなかで特記すべきものとして、東北大学附属図書館狩野文庫所蔵『中叟和尚偈』の調査・研究が挙げられる。同書は室町期の東福寺僧、中叟良鑑の偈頌集で、東福寺正光庵旧蔵のものである。当該期の東福寺周辺の様々な僧俗へ与えた画賛や道号頌が含まれており、比較的史料の少ない応永・永享期の東福寺の様相を示す史料として重要である。とくに、禅宗寺院において経営面を司る東班僧に関する記述が見られることが注目され、たとえば備中国上原郷の荘主として下向した納所永広の道号が本書から判明する。そのことにより永広と備中国現地との関わりを明らかにし、東班僧が荘園現地においてどのような知識・情報を得ていたかという点について考察した。この点については別掲の論文を発表している。 なお、同書には中叟良鑑と山名時煕との関わりを示す記述も多く含まれており、荘園経営の知識形成にあたって、禅宗寺院と大名クラスの勢力との関わりがどのような意味を持っていたのか、新たな知見をもたらすものと期待される。この点については本年度は口頭報告を1回行った段階だが、次年度以降も引き続き研究を深めたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、中世禅僧が農業知識をどのように共有・蓄積していたかについて、主として禅籍および抄物史料を中心として明らかにすることにある。そのための基礎的作業として、初年度は禅籍および抄物史料の所在状況の確認を中心として研究を進め、さらに一部の禅籍について実際に調査を行い結果を公表した。こうした点から、研究は一定の進展を得ており、おおむね順調に推移していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、禅籍および抄物史料の所在状況について確認をすすめ、これを踏まえて実際に調査を行う。京都・関東近郊の寺院のほか、全国に散在する大学・図書館等の所蔵史料についても積極的に調査を進める予定である。なお、禅籍については多様なものが存在することから、対象となる史料に応じて専門分野の研究者の同行・協力を求める予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費の使用計画としては調査旅費が中心となる。具体的には前年度に引き続き京都市内の禅宗寺院の調査を行うほか、あらたに中国地方の寺院・機関について調査を行う予定である。また、調査した史料については、必要に応じてデジタル撮影や紙焼写真・フィルムの購入を行い、所蔵者の承諾の得られたものについては史料編纂所図書室において閲覧公開に供する。
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Research Products
(4 results)