2012 Fiscal Year Research-status Report
清代中期の制銭供給政策に関する財政史的研究―近代前夜の中国貨幣と国家―
Project/Area Number |
24720318
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
上田 裕之 筑波大学, 人文社会系, 助教 (70581586)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 貨幣史 / 清朝 / 貨幣政策 / 銅銭 / 制銭 / 档案 |
Research Abstract |
本研究は、18世紀後半から19世紀前半における清朝の制銭供給政策の分析を目的としている。その前提となるのが、18世紀中葉時点における漢地の貨幣流通状況の正確な理解である。これについては既に拙著『清朝支配と貨幣政策』(汲古書院、2009年)において検討したことがあったが、岸本美緒「(書評)上田裕之著『清朝支配と貨幣政策』」(『歴史学研究』878、2011年)において、銭貴の発生と制銭供給政策との前後関係・因果関係について疑義を投げかけられた。そこで私はこの問題を慎重に再検討し、論文「「雍正の銭貴」はあったのか?」(『史境』65、2013年)を執筆した。そこにおいては、確かに各省からは公定比価を上回る制銭の銭価が雍正帝のもとに報告されていたが、制銭鋳造命令の動機づけになるほど問題視されていたとはいえず、制銭鋳造のための黄銅器皿の強制買い上げを銭貴対策として正当化する政治手法に利用されたにとどまったとみるべきである、との見解に達した。また、本研究課題に密接に関係するものとして、書評「黨武彦著『清代経済政策史の研究』」(『歴史評論』750、2012年)を発表した。また、筑波大学中央図書館所蔵の『乾隆朝上諭档』『嘉慶道光両朝上諭档』『議覆档』『内閣漢文題本戸科貨幣類』『明清档案』『雍正朝内閣六科史書戸科』『宮中档批奏摺財政類』『宮中档乾隆朝奏摺』などに収められた関係档案の収集・分析を進めた。加えて中国第一歴史档案館(北京市)において、『軍機処上諭档』『軍機処漢文録副奏摺』『軍機処雨雪糧価単』の調査を実施した。現在は、乾隆後半(1766~1795)における制銭鋳造量の推移に関する論文、および、雍正・乾隆(1723~1795)の貴州省における亜鉛生産と省財政との関係に関する論文を準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の前提となる18世紀中葉の貨幣流通状況について論文を発表できたのは計画を上回る成果であったが、その一方で、計画していた制銭鋳造量の推移に関する論文については、現時点において発表には至っていない。また、档案史料の調査・収集・分析についてはほぼ計画通りに進められている。以上から、「おおむね順調」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
中国第一歴史档案館・台湾故宮博物院図書文献館・筑波大学附属図書館などでの史料の調査・収集を継続して実施する。対象となるのは主に、『宮中档朱批奏摺財政類』『宮中档乾隆朝奏摺』『宮中档嘉慶朝奏摺』『宮中档道光朝奏摺』『軍機処議覆档』『内閣漢文題本戸科貨幣類』『乾隆朝上諭档』『嘉慶道光両朝上諭档』などである。その上で、以下の4つの課題に取り組む。第一は、乾隆15年頃に確立した各省の公項財政(地方行政経費や地方官の勤務手当=養廉銀を扱う財政部門)の運用状況である。第二は、公項財政の充実という財政的動機に大きく規定された乾隆年間の各省の制銭供給とその後の私鋳銭充溢・銭価下落との因果関係である。第三は、銭価の下落や雲南銅の減産という新たな事態に直面して、公項財政に差益を計上していた西南諸省の制銭鋳造が縮小・停止された経緯、および、そこにおける代替財源の問題である。第四は、戸部(清朝中央)の財政難のもとで北京の八旗兵餉になされた制銭搭放の変容過程である。現在、乾隆後半(1766~1795)における制銭鋳造量の推移に関する論文、および、雍正・乾隆(1723~1795)の貴州省における亜鉛生産と省財政との関係に関する論文を準備中であるので、まずはその完成を目指す。この他、明清史夏合宿・社会経済史学会・日本アルタイ学会・満族史研究会などの学会に積極的に参加し、研究動向・史料状況に関する最新の情報を調達するよう努める。以上の取り組みを通して、乾隆・嘉慶・道光年間(1736-1850)の制銭供給政策を清朝支配の内側から読み解く。かかる本研究においては、清朝国家が必要な政策に取り組みながらも中国社会との複雑な相互関係のなかで予期せぬ貨幣史的展開に巻き込まれていった経緯を照らし出すこととなろう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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