2013 Fiscal Year Research-status Report
清代中期の制銭供給政策に関する財政史的研究―近代前夜の中国貨幣と国家―
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24720318
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
上田 裕之 筑波大学, 人文社会系, 助教 (70581586)
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Keywords | 貨幣史 / 清朝 / 貨幣政策 / 銅銭 / 制銭 / 档案 / 雲南省 / 鉱業史 |
Research Abstract |
本年度は、筑波大学所蔵「宮中档朱批奏摺財政類」「宮中档乾隆朝奏摺」に収められた関係資料を集中的に調査・収集し、乾隆中葉に雲南省において銅の生産効率悪化にも関わらず買い上げ価格が十分に引き上げられなかった理由を検討した。その結果、次のことが解明された。すなわち、かつて戸部から雲南省に譲り渡された銅息が、戸部による厳格な統制の対象となることで硬直化し、余銅の実質価銀の純増を阻害していた。さらに、余銅の実質価銀増額のための代替財源となった制銭鋳造の実質鋳息も、従来の制銭鋳造によるものは戸部の手に握られていたので、雲南省はいつ失速するとも知れない銅産に依存した追加鋳造を推し進めるしかなく、結局、それはほどなくして息切れし、余銅の実質価銀は頭打ちとなった。かかる経緯の根底に存在するのは、中央財政と地方財政との区分が存在しない中国財政史に普遍的にみられる中央と地方とのトレードオフである。ただし、かつてはその範疇の外側にあった地方的収支部門の中央統制下への編入と全盛期を迎えた雲南の銅産における生産効率の悪化という二つの新しい現象が他ならぬこの乾隆中葉に重なったという固有の歴史的経緯に着目することによってはじめて、清朝の銅政と制銭鋳造を破綻に向かわせた構造的要因を説明することが可能になるのである。以上の成果は、上田裕之「清代乾隆中葉における雲南銅の収買価格」(『社会文化史学』第57号、65-94頁[横組]、2014年3月)として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の実施状況報告書において「準備中」としていた、乾隆後半における制銭鋳造量の推移に関する論文を用意するなかで、一大鋳銭拠点であった雲南省の内情が極めて複雑であり、銅政との関係を本格的に検証する必要があることを確信し、前掲論文「清代乾隆中葉における雲南銅の収買価格」を執筆・発表するに至った。それを踏まえて全国の制銭鋳造量を跡付けるまでには至らなかったが、本研究は着実に進展している。 なお、昨年度の実施状況報告書においては、貴州省の亜鉛生産に関する論文も「準備中」としていたが、その後、直接的に関係する馬琦『国家資源:清代テン[シ+眞]銅黔鉛開発研究』(人民出版社、2013年)が刊行された。極めて詳細な研究ではあるが、省財政との関係に注目する私とは関心の所在が異なる。本書を精読した上で研究を進めることによって、当初計画した以上の成果を得られると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
中国第一歴史档案館・台湾故宮博物院図書文献館・筑波大学附属図書館などでの史料の調査・収集を継続して実施する。対象となるのは主に、『宮中档朱批奏摺財政類』『宮中档乾隆朝奏摺』『宮中档嘉慶朝奏摺』『宮中档道光朝奏摺』『軍機処議覆档』『内閣漢文題 本戸科貨幣類』『乾隆朝上諭档』『嘉慶道光両朝上諭档』などである。その上で、当初の計画通り、以下の4つの課題に取り組む。第一は、乾隆15年頃に確立した各省の公項財政(地方行政経費や地方官の勤務手当=養廉銀を扱う財政部門)の運用状況である。第二は、公項財政の充実という財政的動機に大きく規定された乾隆年間の各省の制銭供給とその後の私鋳銭充溢・銭価下落との因果関係である。第三は、銭価の下落や雲南銅の減産という新たな事態に直面して、公項財政に差益を計上していた西南諸省の制銭鋳造が縮小・停止された経緯、および、そこにおける代替財源の問題である。第四は、戸部(清朝中央)の財政難のもとで北京の八旗兵餉になされた制銭搭放の変容過程である。前掲論文「清代乾隆中葉における雲南銅の収買価格」によって第二・第三の課題が特に前進したので、引き続き取り組みながら、第一・第四の課題にも着手したい。この他、明清史夏合宿・社会経済史学会・日本アルタイ学会・満族史研究会などの学会に積極的に参加し、研究動向・史料状況に関する最新の情報を調達するよう努める。以上の取り組みを通して、乾隆・嘉慶・道光年間(1736-1850)の制銭供給政策を清朝支配の内側から読み解く。かかる本研究においては、清朝国家が必要な政策に取り組みながらも中国社会との複雑な相互関係のなかで予期せぬ貨幣史的展開に巻き込まれていった経緯を照らし出すこととなろう。
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Research Products
(1 results)