2014 Fiscal Year Research-status Report
清代中期の制銭供給政策に関する財政史的研究―近代前夜の中国貨幣と国家―
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24720318
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
上田 裕之 筑波大学, 人文社会系, 助教 (70581586)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 貨幣史 / 清朝 / 貨幣政策 / 銅銭 / 制銭 / 档案 / 銅禁政策 / 京局ベン銅 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、清代中期貨幣史の出発点に位置する雍正年間の貨幣政策、とりわけ銅禁政策(黄銅器皿の所有を禁じ、強制的に買い上げる政策)に関して、新出資料『雍正朝内閣六科史書 戸科』から関係史料を収集し、分析を加えた。当該政策は、これまで、官撰書および上奏文の一種である奏摺に基づいて研究がなされていたが、官撰書に記されているのはあくまでも公式見解に過ぎず、奏摺は雍正帝と各省督撫とのやり取りの一部ではあるが政策過程を跡づけるには十分でなく、中央での政策過程に関しては全く関係するものがない。これに対して『雍正朝内閣六科史書 戸科』は、奏摺とは別種の上奏文である題本(財政関係のもの)の抄録であり、政策過程を緻密に検討することができる。私は、当該史料から銅禁政策に関係する200件以上の題本を検出し、網羅的に分析を加えた。その結果、銅禁政策は京師の宝泉・宝源両鋳銭局の銅不足を補填するために開始された廃銅収買策を拡充するものとして実施されたものであり、制銭の銷燬防止や全国的な銭貴への対応という先行研究の理解は大幅に修正されるべきであることが判明した。以上の成果は、論文「清代雍正年間の銅禁政策と京局ベン銅」にまとめた(平成27年度中に発表する予定)。また、各省での銅禁政策に関しても見直しを進めている。この他、足立啓二『明清中国の経済構造』(汲古書院、2012)の書評を執筆した。これは、平成27年4月刊行の『史学雑誌』124(4)に掲載される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度明らかにした内容は、必ずしも交付申請書の「研究の目的」に記載していた具体的課題とストレートに対応はしていない。しかし、前述したような特質を有する銅禁政策は、日本銅が減少してから雲南銅が京局ベン銅に組み込まれるまでの過渡期に京局の銅不足を補填したものであり、その後の雲南銅の組み込みは専ら雲南省主導でなされたことに鑑みると、銅禁政策は図らずも清朝中央が雲南銅を中枢的にコントロールする契機を失わせるものであったといえる。当該政策によって清朝中央は、雲南銅の統制に「乗り出さずに済んでしまった」のである。これは、その後のベン銅政策全体を規定するものであり、「研究の目的」に記載した4つの課題すべての前提をなしている。これによって、4つの課題それぞれについて、より鋭い考察を加えることが可能になった。論文の公刊は年度内に間に合わなかったので、本年度の研究業績にカウントすることはできなかったが、研究全体としては十分な深化を遂げることができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き『宮中档朱批奏摺財政類』や『雍正朝内閣六科史書 戸科』などから関係する档案史料を収集し、分析を加えていく。本年度の成果を基礎として、京師・各省の制銭供給政策について、より構造的な説明が可能になると期待できる。また、社会経済史学会・明清史夏合宿・満族史研究会・日本アルタイ学会などの関係学会に積極的に参加し、研究動向・史料状況に関する最新の情報の収集に努める。
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