2012 Fiscal Year Research-status Report
イスラーム政治思想における「正統カリフ」概念の発展とスンナ派の形成
Project/Area Number |
24720319
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Chiba Institute of Science |
Principal Investigator |
橋爪 烈 千葉科学大学, 薬学部, 講師 (10613862)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 国際情報交換 / トルコ / イスタンブル / エジプト / カイロ |
Research Abstract |
平成24年度の研究活動は、まずカリフ論を収録するアラビア語著作(思想書を中心とする)の割り出しと主要作品の収集・読解を行うことが中心的な作業となった。カリフ論を収録する作品の割り出しと主要作品の収集に関しては、早稲田大学イスラーム地域研究機構所蔵のアラビア語写本マイクロフィルムコレクションの調査、および8月から9月にかけてエジプトアラブ共和国カイロ市にあるアラブ連盟写本研究所とトルコ共和国イスタンブル市にあるスレイマニイェ図書館で行い、既に刊行されている作品の原本となった写本のみならず、未刊行作品やこれまで知られていなかった、ないし研究に用いられていなかった作品の把握と一部複写などを行い、カリフ論研究に必要な史料を揃える作業を行った。特筆すべきは、イブン・ハンバルに帰される作品『教友の美徳の書』の存在を確認し、その一部を複写・書写したが、同書には「正統カリフ」概念の元となる考え方が示されており、今後分析を進める史料として見出したことである。 またその調査と並行して、刊行済みの主要作品の読解を年度当初から進めた。具体的にはイブン・ハンバルの著書『スンナの書』とアシュアリーの著書『明解』の二作品にしぼり、前者から後者への「正統カリフ」概念の思想的影響関係を調べた。 以上の調査・読解の成果をまとめ、今後の研究作業の方向性を探るため、イスラーム初期史研究会(九州大学教授清水和裕氏主催の私的な研究会)で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度の実施計画中、カリフ論を収録しているアラビア語著作の割り出し作業の進展状況は半ばまで進んだ。ただし、トルコでの写本調査において、複写規定が厳しくなったため、内容精査ための情報抽出作業があまり進展していない。これは写本複写条件の改訂が行われ、単独写本の電子複写の枚数に制限が設けられたことによる。このため、複写できない部分については、パソコンに直接入力することで写す作業をする必要が生じ、この作業に時間を取られたことにより、トルコでの写本調査が十分にできなかったことに由来する。 一方入手した史料に関しては、読解作業を進めており、情報の抽出も行っているので、こちらの進展状況は良好である。また初年度は情報収集に力点を置いていたため、成果公開については年度末に行った研究会での発表のみであるが、次年度には講演会、その後成果報告論集の作成の予定があるので、初年度後半はこの講演会への準備を中心に作業を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年6月29日東京大学大学院総合文化研究科スルタン・カブース・グローバル中等研究寄付講座主催の「2013年度中東イスラーム世界セミナー”中東の思想と社会を読み解く”」において、24年度の調査の成果を発表する予定である。題目は「スンナ派政治思想における「正統カリフ」概念の意義」であり、スンナ派政治思想全体を見据えてのカリフ論研究を提示するとともに、これまでの研究の方向性の是非を問いつつ、今後の研究の進め方についても反省的に考察を加えていく予定である。また同セミナーでの成果は論集として刊行される予定であるので、前近代におけるイスラーム政治思想研究の一端を広く提示できる内容に仕上げていく予定である。 また、成果発表としては10月10-12日にベルギーのリエージュ大学で開催される「アラビア語自筆本学会」において、イスラーム政治思想家の一人として取り上げられるイブン・ハルドゥーンの自伝の写本に関する研究を披歴し、歴史研究・思想研究における写本利用の重要性と扱い方に関する問題点を指摘する予定である。同学会にはすでに発表のエントリーを済ませ、査読を経て採用されている。 また平成24年度に行ったトルコでの写本調査は、現地の写本閲覧・複写の規定が変更となり、一写本を全体として複写することが不可能となった。このため、複写できない部分に関してはパソコンに直接入力する作業が必要となったわけであるが、この作業に時間がとられ、十分な調査ができなかった。したがって、平成25年度も未調査・調査不足を補う必要から、再びトルコでの写本調査を行う予定である。併せてイギリス、ロンドンにある英国図書館所蔵のアラビア語写本中、カリフ論研究に必要と思われる写本を見出しているので、同図書館において当該写本を中心に調査を行うことも予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は研究費をすべて使用せず、次年度に繰り越した。その理由としては、トルコでの写本調査において、写本の複写が難しくなり、複写費用として計上していた分に余りが生じたためである。また平成25年度は、トルコでの再調査に加え、ベルギーでの研究発表が決まっていたため、二回の海外渡航をすることになり、費用がかさむことが予想された。それ故、次年度の旅費に用いるべく、平成24年度の複写計上分を使用せず、平成25年度に繰り越した。したがって、次年度(平成25年)は主として二回の海外渡航と写本複写費用、および海外での研究発表にかかる英文校閲代に研究費を用いる予定である。
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