2014 Fiscal Year Research-status Report
19世紀後半ロシア帝国統治下ムスリム社会の家族社会史的研究
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24720327
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Research Institution | Kyoto University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
磯貝 真澄 京都外国語大学, 国際言語平和研究所, 嘱託研究員 (90582502)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | イスラーム法 / ロシア法 / ロシア帝国 / ウラマー / 裁判 / 法社会史 / 国際研究者交流 / ロシア |
Outline of Annual Research Achievements |
報告者は、研究課題(1)-2「19世紀後半~1905年のロシア帝国ヴォルガ・ウラル地域における、帝国のムスリム行政とムスリムの家族・社会生活、およびイスラーム法実践の実態を、遺産分割関係文書を法社会史・家族社会史的視点から分析することで解明する」のための作業を実施した。 具体的には、1880~1890年代にムスリムが遺産分割をめぐって争った案件の文書を読解分析した。その結果、ムスリム行政機関であるオレンブルグ・ムスリム宗務協議会で「カーディー」職を務めたり、その管下の「イマーム」職にあったりしたウラマーが、争いの裁定のために行なった業務の内容を解明することができた。彼らは、特に実体法の対象となるような事柄について、アラビア語で書かれた古典的イスラーム法学書を参照して作業していた。ただ、彼らの裁定業務の手続法的な部分は、ムスリム政権下で歴史的に成立・発展したシャリーア法廷の裁判官であるカーディーの業務とは異なり、ロシア帝国の一般の裁判機関に類似する性格を有したと言えるだろう。 この研究結果を、報告者は日本中東学会第30回年次大会において、「19世紀後半ロシア帝国ヴォルガ・ウラル地域の「カーディー」」という題目で口頭発表した(「研究発表」欄参照)。そこで明らかとなった問題を修正し、現在、これを学術論文にまとめる作業の最終段階にある。これは学術雑誌への掲載が決定している。 研究課題(1)-2については、上述の研究結果を基礎に、より社会史的な視点から発展的な研究を進めることができる。そこで報告者は、当初の研究実施計画とあわせ、ロシア連邦サンクト・ペテルブルグ市に史資料収集のため出張した。そして、ロシア科学アカデミー東洋写本研究所、ロシア国立歴史文書館、ロシア国民図書館で資史料の所在調査をし、必要なものを収集した。現在、その読解分析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究課題(1)については当初の計画以上に進めることができ、さらに発展的なサブ研究課題を設定して作業を行ない、その成果を公開することができている。 一方で、研究課題(2)「19世紀後半~1905年のロシア帝国ヴォルガ・ウラル地域におけるムスリム家族とマハッラ(宗教・行政上の教区共同体)の実態を、ムスリムの教区簿冊を史料として家族社会史的・歴史人口学的手法により解明する」には、本格的に着手することができなかった。この研究課題の解明に必要な、ロシア連邦ウファ市での史資料収集作業が実施できなかったためである。研究課題(2)については、手もとに収集済みの関連史資料の読解分析を進めるにとどまった。 上述の状況から、報告者は、本研究計画が全体としては順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は本科研費研究の最終年度である。このため、次の2つの研究課題について、研究を進める。 その第1は、研究課題(1)-2「19世紀後半~1905年のロシア帝国ヴォルガ・ウラル地域における、帝国のムスリム行政とムスリムの家族・社会生活、およびイスラーム法実践の実態を、遺産分割関係文書を法社会史・家族社会史的視点から分析することで解明する」である。「研究実績の概要」欄に記載したように、次年度はこれまで収集した史資料、特に遺産分割関係文書の読解分析をさらに進め、研究対象であるムスリム社会と家族について、法的活動における人の役割と相互関係という、より社会史的な問題に着目し、その実態を解明する。 第2の研究課題(2)「19世紀後半~1905年のロシア帝国ヴォルガ・ウラル地域におけるムスリム家族とマハッラ(宗教・行政上の教区共同体)の実態を、ムスリムの教区簿冊を史料として家族社会史的・歴史人口学的手法により解明する」についても作業を進め、基礎研究的な成果の公開をめざす。 2つの研究課題のいずれについても、そして第2の研究課題(2)については特に、ロシア連邦ウファ市の諸文書館・図書館における史資料の所在調査と収集作業を行なう必要がある。この作業は昨年度実施する計画だったが、これまで持ち越してきたため、次年度は必ず行なう。そして、研究課題(2)の成果を公表したい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は2つある。第1は、研究資料を購入収集するため、ロシアの書店に注文した書籍が、年度内に届かなかったことである。それらの代金は次年度の支出となる。 第2は、「現在までの達成度」、「今後の研究の推進方策」欄に記載したように、ロシア連邦ウファ市に赴き、そこの諸文書館・図書館で史資料を収集する計画が遂行できなかったことである。これを補うため、今年度もロシア科学アカデミー・ウファ学術センター歴史言語文学研究所のR・ブルガーコフ研究員、M・ファルフシャートフ研究員と密に連絡を取り、史資料の入手を可能な限り行なったが、作業としては十分なものにならなかった。この結果、旅費相当分を次年度に送ることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額とした物品費から、すでに発注した書籍で年度内に届かなかったものの代金を支出する。この点で計画に変更はない。 また、当初の研究実施計画で、今年度、次年度のいずれにおいても、ロシア連邦ウファ市の諸文書館・図書館での史資料の所在調査と収集を行なう予定だった。このため、次年度は、今年度実施できなかった作業と、次年度実施する計画である作業をともに、当該地で行なう計画である。これは、当該地での滞在作業期間を当初計画より延長するか、または当該地に複数回渡航することで行なう。つまり、旅費として支出する計画だった予算額については、その計画通り旅費として使用する。
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