2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24720328
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
水越 知 同志社大学, 文学部, 助教 (90609538)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 中国史 / 近世史 / 文書史料 / 女性史 / 訴訟 / データベース / 国際情報交換 / 中国 |
Research Abstract |
1、『巴県档案(同治朝)』〈婦女〉の分析:1361件分のマイクロフィルムの紙への焼き付け、およびPCにデータとして取り込む作業も完了(PDFファイル化)。四川省档案館による簡明目録をもとにした個々の案件のデータベース化については作業継続中であるが、もとの目録を補訂すべき個所も多数見つかっており、データベース完成後は当該史料利用の便も大幅に改善されると思われる。 2、関連資料の収集:研究期間開始時期に『清代四川巴県衙門咸豊期档案選編』が刊行され、これを購入して研究対象の档案に先立つ時期の資料の一部を考察に加えることができたほか、定期的に行っている巴県档案の研究会の参加者から四川・重慶に関する資料の情報を得ている。また関連する研究として四川省北部の南部県档案について蔡東洲ほか著『清代南部県衙档案研究』(中華書局)が出版され、その一部に本研究課題と重なる部分があると確認された。地域間の比較や女性関係訴訟の論点の整理に利用できるものと考える。 3、現地調査:24年度は予算の問題等の関係で実施を見送った(25年度は実施予定)。 4、総括:(1)『巴県档案(同治朝)』〈婦女〉は従来利用が皆無に近い史料であり、内容まで含めデータベース化することは、法制史・家族史・女性史などの研究に大きく寄与できると考える。最終的な完成を急いでいる。(2)内容分析については中間段階であるが、例えば案件の分類により全体の中で毀婚(婚姻関係を破たんさせる)が10%や妻への虐待が6%など、従来注目されていない案件が多い、また夫と妻が直接原告・被告となる案件の多さ(27%)、また最大の問題点として虚偽告訴(および曖昧なもの)の多さは社会史史料としての利用法の再検討を迫るもので、当初の見込みと異なる新たな発見もある。これらは25年2月の宋代史談話会のほか、学内の研究会や巴県档案の研究会でも随時指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「やや遅れている」と判断した最大の理由は『巴県档案(同治朝)』〈婦女〉のデータベース化の遅れである。このために現時点では統計分析は行っていないが、ただし総合的な分析に十分な史料整理は完了しているものと判断する。この点を踏まえて研究目的の達成度は以下の通りである。 (1)女性の法的立場の考察については、従来知られている犯罪事件当事者の場合、家長の代理の場合のほか、非常に広範に女性が訴訟に関与している点が明らかにできた。妻妾が婚姻時の契約違反を訴え、また離婚請求するなどの案件の存在を確認し、女性を法的弱者とする単純な見方を修正できる材料は集まりつつある。これらの点は初年度の目標は概ね達成したと考える。一方でこの問題を客観的に考察するための材料、すなわち法律の規定、判牘(判例集)などの史料の分析を行う時間が十分になかった。 (2)訴訟の実態からみた地域史・女性史研究については、まずデータベース作成過程で訴訟実態の詳細については史料整理が進みつつある。時代性・地域性の問題では重慶に関する資料が十分に集まっておらず、地域史的観点での考察が進んでいない。この点は現地調査が実施できなかった点も関係している。
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Strategy for Future Research Activity |
1、巴県档案研究会の活用:すでに毎月一回のペースで開催され、申請者も参加している巴県档案の研究会のさらなる活用を考えている。今年度から当該研究会を母体とし、夫馬進氏が研究代表者となる「『巴県档案』を中心としてみた清代中国社会の訴訟・裁判――中国社会像の再検討」が日本学術振興会科研費の研究課題に採択され、申請者もその研究分担者となったことで、より多くの国内外の研究者の研究会参加や、情報交換の場として機能することが期待されるためであり、現地での資料調査においても研究会のメンバーと協力・情報交換をしながら実施する予定である。また研究課題の論点を絞り込み、論文としてまとめるまでの段階でも研究会でさまざまな討論の機会があり、これまで以上に研究を推進する原動力となると考えられる。 2、研究計画の一部修正:基本的に研究計画から大きく変更はないが、24年度の研究による見通しとして、清代末期の重慶に関する史料が少ないことが予想される。したがって研究の重点は重慶の地域性を念頭に置いた地域間比較ではなく、女性関係訴訟、とりわけ通時代的にみた婚姻に関する紛争に置いて研究を遂行することを考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度の研究費のうち一部が次年度に繰り越された点は、マイクロフィルム焼付に予想以上の費用が掛かり、そのほかの必要備品、書籍を購入した段階で現地調査を実施するには不十分な金額となったため、残額は次年度の現地調査の費用に充てるために繰り越した。 使途としては8月に成都・重慶の現地調査実施に支出するほか、研究協力者に現地に同行してもらうための交通費にも充当する予定である。現地で史料の入手・購入にかかる費用は未定であるが、可能であれば年度内に再度の現地調査を実施することも計画している。
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