2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24720328
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
水越 知 同志社大学, 文学部, 助教 (90609538)
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Keywords | 中国史 / 近世史 / 文書史料 / 女性史 / 訴訟 / 国際情報交換 / 中国 / 婚姻 |
Research Abstract |
1、『巴県档案(同治朝)』〈婦女〉の分析:前年度の予定から作業がやや遅れていた簡易データベース作成を遂行。四川省档案館作成の目録番号に基づいて整理し、原告・被告の人名や人間関係、住所や案件の性質などの項目についての表が完成している。現時点で目録番号の誤記や重複、また誤った分割などの箇所を指摘してあるが、さらなる精査が必要。 2、関連資料の収集:8月に『巴県档案』が所蔵される中国四川省成都市の四川省档案館で調査を行い、同治年間(1862-1874)以外の時期の档案史料や、他の分類の档案史料に関して幅広く調査を実施した。このほか国内の国立国会図書館、東京大学、京都大学、龍谷大学、佛教大学などで資料調査を実施。これらの研究機関では主に当時の家族倫理やその背後にある宗教意識を知るために、勧善書や宗教文献を中心に調査を行った。このほか引き続き定期的に開催されている夫馬進氏主宰の巴県档案研究会に参加し、研究会のメンバーから様々な資料・情報を得ている。 3、現地調査:前述のとおり、8月19日から26日にかけて中国での現地調査を実施。8月20日、21日に四川省档案館で档案史料の調査をしたほか、8月22日から25日まで重慶市で関連する地域を実地調査した。ここでは湖広会館、羅漢寺など清代から現存する文物を見学したほか、郊外の磁器口鎮、塗山などを調査し、地理的認識を深めた。なお成都・重慶での調査には現地研究者の協力を得、さまざまな情報・資料の提供を受けた。 4、中間的成果の公表:2013年12月7日の文化史学会において、「中国近世の離婚問題――清代訴訟史料を中心として――」の口頭発表を行い、基礎的な分析をまとめた「『巴県档案(同治朝)』〈婦女〉の概要――覚書として」を『文化学年報』第63輯にて公刊した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「おおむね順調」と判断した理由は、全体として『巴県档案(同治朝)』〈婦女〉の分析基本的に完了し、中間的な口頭報告と論文としてまとめたこと、および国内外での資料調査や現地調査で一定の成果が出たことにあるが、以下、個別の課題について述べる。 (1)女性の法的立場の考察:『巴県档案(同治朝)』〈婦女〉の分析および、中間的成果論文において、とくに離婚の問題に注目することによって焦点を絞り込むことができた。従来、離婚は夫の専権的な行為と見なされ、また女性の家庭内の地位からみても法的にはまったく不利な状態にあったと考えられてきた問題だが、档案の分析から離婚に際して妻や妻の親族が夫に要求する例の多さを確認でき、妻の法的立場について考察する基礎が出来上がったと考える。前近代中国の離婚に関しては依拠すべき先行研究もあり、論点の整理もなされているが、利用した資料の性質が異なるため、より実態に近い離婚のあり方が描出できるものと考える。 (2)訴訟の実態からみた地域史・女性史研究:この問題も『巴県档案(同治朝)』〈婦女〉の分析から、関係者の住所を調べ、結婚の場合には通婚圏が大変狭く、妾の場合には広くなるなどの基礎的な情報を得た。一方で重慶地方の資料の乏しさを補うために、国内外で宗教関係の史料を収集し、19世紀後半の重慶に特徴的な民間信仰の隆盛に関しても調査を行い時代的背景の把握に努めている。この成果は別にまとめつつあり、最終的に本研究と総合できるものと考える。 (3)そのほか:参加している巴県档案研究会のメンバーも個別に四川省档案館や重慶市での調査を進めており、研究会を通じて重慶市巴南区に関する資料を多く入手することができた。これは今後の分析の上で档案史料を補うもので、農村部の地理環境や宗教施設、有力者の血縁関係などのより詳細な情報を得、今後の研究の視角を定める際の重要な資料となる。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点では大きな問題点や変更の必要は認識していないが、今年度は以下の諸点に留意して研究を推進していく。 (1)分析視角の確定:最終的な成果として、清代後期の女性関係訴訟に関しての最重要の問題を離婚関係の訴訟と位置付け、それらの案件の詳細を分析し、特徴を明らかにしていく。離婚は現代中国でも社会問題化しており、とくに離婚における女性の立場に関しては注目される課題でもあるため、こうした情報・研究を入手して研究課題の意義を明確に打ち出したい。 (2)資料収集:『巴県档案(同治朝)』に関して基礎史料を一部補強するために、離婚や婚姻問題と関わる「家庭」の分類などを再度調査する。また地域性に関わる資料を収集するため、重慶以外の四川省各地の地方志などにも調査範囲を広げるほか、再度の現地調査を実施して重慶の地方档案・族譜などの地域資料の収集を進めていく。巴県のうちでもとくに調査対象とすべき地点については二、三の候補があるが、研究協力者と緊密に連絡を取って計画・実行していくことを考えている。 (3)関連研究成果の総合:昨年度後半から重慶の民俗宗教に関する資料を収集し、成果の一部をまとめる予定だが、本研究の課題とも関係する部分が多く、成果を総合していけるよう論点を整理する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年度は現地調査1回(中国・成都市、重慶市)、および国内調査2回(東京)を行い、旅費および資料調査による資料複写費を重点的な項目として予算を執行した。このうち中国での調査では、計画段階の見通し以上に調査に制約があり、網羅的な資料調査は現時点で困難であるため、期間を短縮して25年度に新たな計画で再調査することとしたため、当初の計画よりも旅費にあてる予算の余剰を残したためである。 また本研究が研究分担者として参加する科研費と研究課題の上で重なる部分が多く、本研究推進にも寄与する一部の旅費や書籍代などを当該の分担金から支出したことにもよる。 26年度には以下の二項目を重点として予算を執行する。 (1)現地資料調査:8月下旬に1週間程度の調査を予定している。現時点で最終的な決定に至っていないが、中国・成都市、重慶市の二地点を中心に、分析の進捗状況から適切な調査先を判断する。費用は25年度の執行額と同水準で計画している。 (2)国内の資料収集:必要に応じて『巴県档案(同治朝)』のマイクロフィルムの焼き付けを行うほか、国内研究機関での資料調査を実施する。
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