2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
24720333
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小笠原 弘幸 九州大学, 人文科学研究科(研究院), 准教授 (40542626)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | オスマン帝国 / トルコ共和国 / 公定歴史学 / 歴史叙述 / 歴史教育 / ナショナリズム / トルコ主義 / アタテュルク |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、トルコ共和国初期の1930年代に主張された、いわゆる「公定歴史学」についての研究である。公定歴史学は、古代にトルコ人が中央アジアに大文明を樹立しており、それが乾燥化によって衰退したのちにトルコ人が世界各地に広がったと論ずる。そして、世界中の言語はトルコ語を基にしている(太陽言語論)とも主張する。このように、公定歴史学は極端なトルコ民族主義的な主張を行っており、ナショナル・ヒストリーのひとつの興味深い類例とみなしうる。また、教育の場でもこの理論に基づいた歴史教科書が作成されるなど、歴史教育の観点からも重要な対象であるといえる。 本研究では、まず、トルコ共和国につながる時代である、オスマン帝国末期の状況について、その歴史叙述と歴史教育について焦点を当てて検討を進めた。その結果として、タンズィマート期における歴史教科書は、前近代のリソースを多用して書かれており、いわば「近代的な王朝史」であることが明らかとなった。続くアブデュルハミト二世期では、基本的にタンズィマート期の内容を継承しつつ、より君主への忠誠を強調する内容で書かれた。帝国最末期の第二次立憲政期においては、君主の権威が失墜したことを反映していわゆる「国民史」的な内容で執筆されることとなった。 また、トルコ共和国期については、史料収集を進め、公定歴史学の理論に基づいてすすめられた未完の大プロジェクトである「トルコ史テーゼ草稿」(草稿と名付けられているが、「来るべき大トルコ史の草稿」というニュアンスで用いられている)のテキストを網羅的に入手することができた。その分析によって、公定歴史学の極端に偏った面は古代史に限られており、イスラーム史やオスマン史については相対的に客観的かつ学問的な態度で書かれていることが確認できた。公定歴史学は、一概に偏っているとして断罪されえない、複雑な多様性を持つテキストであるといえる。
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