2012 Fiscal Year Research-status Report
ジャウィ史料の利用によるマレー民族の形成過程の研究
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24720334
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | The Toyo Bunko |
Principal Investigator |
坪井 祐司 (財)東洋文庫, 研究部, 研究員 (70565796)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 国際情報交換 / マレーシア |
Research Abstract |
京都大学地域研究統合情報センターにおいて『カラム』に関する共同研究「島嶼部東南アジアにおける国民国家形成とマレー・ムスリムのネットワーク」(2012年度)を組織し、論文集『カラムの時代IV:マレー・ムスリムによる言論空間の形成(CIAS Discussion Paper No.32)』を2013年3月に編集、出版した。本書では、『カラム』が他の媒体を積極的に引用し、論争を行ったことに焦点をあて、マレー人の言論空間の多様性を明らかにした。本書において、「マラヤの独立とシンガボールのマレー・ムスリム」という論文を執筆し、『カラム』が現在進行中の独立とは異なる国家像を提示したことを示した。 2013年1月にマラヤ大学にて開催された国際セミナー「イスラームと多元文化主義」において、共同研究を核にセッションを企画した。そこでは、1950年代前半の『カラム』のマラヤ政治に関する論説を分析し、イスラムの制度化を志向する同誌の戦略について報告した。 それとともに、ジャウィの教育活動にも携わった。2012年12月1、2日に「ジャウィ文献と社会」研究会が主催するジャウィ文献講読講習会に講師として参加した。そのための教科書として『ジャウィを学ぶ:ジャウィ文献購読テキスト(CIAS Discussion Paper No.27)』を編集、出版した。2012年9月のマレーシア出張の際には、政府系機関の言語出版局(DBP)で行われたジャウィのローマ字翻字に関するセミナーに参加してDBPの担当者やマレーシア人研究者と会合し、マレーシアにおけるジャウィの教材作成に関して協力することを確認した。 また、マレーシア(マレーシア国立公文書館)、シンガポール(シンガポール国立図書館、国立シンガポール大学図書館)、イギリス(大英図書館、イギリス国立公文書館)において各機関所蔵のジャウィ定期刊行物の調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、『カラム』を中心としたジャウィ定期刊行物の分析により、外来の出自を持つムスリムがマレー民族の形成に果たした役割を明らかにするため、以下の三つの課題を設定した。それぞれの進捗状況は次のとおりである。 (1)『カラム』の分析により、そこに描かれるマレー人やマラヤの多民族からなる社会秩序全体に対する認識を明らかにすること。これについては、2013年1月の国際セミナーでの報告と同年3月の論文集に執筆した論文において、『カラム』知識人がマラヤの植民地制度や多民族の社会秩序を否定するのではなく、むしろ積極的に自らを制度化することで地位を強化しようとしたことを明らかにした。ただし、マレー人という民族に対する認識の解明ついてはやや不十分なままであるため、次年度以降の課題とする。 (2)『カラム』の分析により、同誌がシンガポール、インドネシアなどマレー人が少数派であった地域・国家に対してどのような働きかけをしたかを明らかにすること。これについては、まだ十分に明らかにできていないため、次年度以降の課題とする。 (3)『カラム』と他のジャウィの定期刊行物の比較、対照によって言説の系譜を明らかにすること。これについては、海外出張による資料調査の結果、マレーシア、シンガポール、イギリスにおけるジャウィ定期刊行物の所蔵状況がほぼ明らかになった。それをふまえて、刊行期間の長さと、移民マレー人の役割という問題意識から、1931~55年までクアラルンプルにて発行されていた『マジュリス』を収集対象とすることが研究目的に合致すると判断し、資料収集を開始した。次年度以降、具体的な資料の分析を行っていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
『カラム』に関しては、前記の課題(2)の解明に重点を置いて分析を進める。特に『カラム』の出版地でマレー人が少数派の多民族社会であるシンガポールに関する記事を選び、その論調にあらわれる彼らの認識を明らかにする。そして、課題(1)とあわせて、外来のマレー・ムスリムからみたマレー民族・社会の理想像を分析する。さらに、主流派のナショナリストとの論争を通じた相互作用を通じて、彼らがマレー民族の形成に果たした役割を明確にしていくことを目指す。 課題(3)に関して、『マジュリス』のマレー人としての政治的主張やマレー人内部の論争をめぐる社説記事を選んで資料の収集および読解を進める。そのうえで、『カラム』のマラヤの社会秩序やマレー人への認識を比較する。それにより、マレー人という集団における少数派のジャウィによる論説としての系譜性を検証するとともに、『カラム』の言説が持つ時代性を明確にすることを目指す。 資料の分析と並行して、研究ネットワークの国際的な拡大および成果の公表を図る。これまでの京大地域研の共同研究で培ったネットワークに加えて、DBPなどのジャウィに関わる出版機関のスタッフやマレーシア人研究者との関係を深め、国際的な共同研究への展開を進める。2013年6月に日本(京都)、9月にはマレーシアにおいて、『カラム』に関する共同研究の国際ワークショップの開催を予定している。 成果の公表に関しては、国際学会を含めた学会に積極的に参加しながら進める。現在のところ、前記の国際ワークショップ「イスラームと多元文化主義」が2013年12月に早稲田大学にて再び行われるため、そこに参加する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は、予定していた物品の購入費が当初の計画を下回ったため、10万円余りの次年度使用額が生じた。次年度は、国内・海外出張、書籍の購入、謝金による資料整理への支出を予定しており、これらの項目への支出にあてることとしたい。
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