2014 Fiscal Year Research-status Report
ジャウィ史料の利用によるマレー民族の形成過程の研究
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24720334
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Research Institution | The Toyo Bunko |
Principal Investigator |
坪井 祐司 公益財団法人東洋文庫, 研究部, 研究員 (70565796)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 国際情報交換 / マレーシア |
Outline of Annual Research Achievements |
ジャウィ雑誌『カラム』に関して、京都大学地域研究統合情報センターの共同研究「脱植民地化期の東南アジアにおけるマレー・ムスリムの自画像と他者像」(2013~14年度)を代表者として組織し、連携しながら活動した。「カラム雑誌記事データベース」の内容を拡充し、資料のデジタル化・共有を進めるとともに、データベースを利用した研究を行った。2014年8月にマレーシアで行われた国際会議にて『カラム』に関するパネルを組織し、筆者は『カラム』の同時代の国際情勢への認識について報告した。10月に発行された日本マレーシア学会の学会誌では、4本の論文を含む『カラム』の特集を組んだ。筆者は、総論において民族主義に対抗するイスラム近代主義を代表する存在として『カラム』を位置づけるとともに、個別論文にて1950年代の政治記事の分析を行い、同誌が宗教の国家への制度化を志向したことを論じた。2015年3月にはディスカッションペーパーを発行した。筆者は、昨年の号から引き続いて写真からみた『カラム』の世界観を分析し、1950年代中葉に同誌の関心が内向きになったことを指摘した。上記の活動を通じて、『カラム』が当時のマレー・ムスリム社会のなかで非主流派でありながらも、主流派に対してより広いイスラム世界の視角から論戦を挑み続けたことを明らかにした。 それとともに、収集を進めてきたジャウィ新聞『マジュリス』の記事の分析を進めた。2014年12月のマレーシアにおける国際会議にて1930年代初頭のマレー人の地位をめぐる議論について報告し、同紙が英語紙を頻繁に引用し、論争していたことを示した。会議のワーキングペーパー(2015年3月)には報告をもとにした論文を執筆した。これにより、『マジュリス』などのジャウィ新聞が当時のマラヤ政治における論争で重要な役割を果たしたことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、『カラム』、『マジュリス』等の分析により、ジャウィの出版活動がマレー民族の形成に果たした役割を分析してきた。現在までに明らかにできたのは以下の点である。 第一に、外来のマレー・ムスリム(アラブ系など)が果たした役割である。『カラム』は、マラヤの民族主義者を宗教を重視する立場から批判した。しかし、彼らはもまた多民族社会におけるマレー人の権利を主張しており、その方法論をめぐる論争はマレー民族概念の形成過程の一部を占めた。 第二に、民族や国家を超えたイスラム主義思想の重要性である。『カラム』は、国境を越えたムスリムの連帯を主張した。ただし、その方法論は近代主義的であり、西洋的な国家制度の枠内で宗教の権限強化を図るもので、既存の植民地の枠組みの根本的な変革を求めるものではなかった。この思想は東南アジアのイスラム運動の系譜を見る上で重要である。 以上は『カラム』の分析から明らかになったが、課題も残されている。『カラム』はアメリカ、ソ連など国際記事を多く含んでおり、イスラム世界を越えた彼らの総合的な世界像を描くことは今後の課題である。また、現在の分析はやや1950年代前半に偏っているため、その後の時期を含めた時代的な変遷を考慮する必要がある。 くわえて、『マジュリス』の分析からは、ジャウィ定期刊行物の系譜性や他者との相互連関が明らかになる。同紙の主張には、『カラム』と類似する要素が多く見られる。くわえて、『マジュリス』には英語紙を含めた他紙の引用・論争が多くみられる。こうした時代間、媒体間の関係を横断的にみることで、一つの資料群としてのジャウィ定期刊行物を分析することができる。ただし、この作業はまだ緒に就いたばかりであり、『マジュリス』のさらなる分析とともに、他の資料も含めたより総合的な分析が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
『カラム』については、以下の2点を重点的に進めていく。第一に、これまでの研究を通じて浮上した課題である『カラム』の世界観についての分析を深めることである。国際関係の記事の分析にくわえて、写真などを利用しながら当時のマレー・ムスリムのものの見方を描き出す作業を続ける。第二に、筆者の分析が刊行初期の50年代前半に偏っていることを踏まえて、主に独立以降の記事を利用して『カラム』の刊行期間を通じた変化を明らかにすることである。上記の作業により、『カラム』の史料としての全体像を明らかにすることができる。 第二に、『マジュリス』の分析を進め、その成果を公表していくことである。収集した資料の分析を進め、1930年代を通じた同紙のマレー人に関する主張を明らかにする。それとともに、同紙が頻繁に他紙を引用し、論争を行っていることを踏まえて、引用元の英語紙・マレー語紙の該当記事を探索し、その関係性を明らかにする。引用された出版物はシンガポール、マレーシア、イギリス、インドネシアなど多岐にわたっているため、追加的な資料調査を行う。成果の公表に関しては、2015年5月に東南アジア学会、7月に国際アジア研究学会(オーストラリア・アデレード)での発表を予定している。 これらの作業を通じて『マジュリス』(1930年代)から『カラム』(1950、60年代)へという言説の系譜性を明らかにしたうえで、資料群としてのジャウィ定期刊行物を総合的に分析し、他者との関係性のなかでマレー民族が形成されていく過程を明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
予定していた海外出張を次年度に回したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
国際学会(2015年7月、オーストラリア)での発表による海外出張により使用する。
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[Presentation] クアラルンプルの歴史2014
Author(s)
坪井祐司
Organizer
マレーシア国立博物館日本語ボランティアグループ研修
Place of Presentation
Muzium Negara Malaysia, Kuala Lumpur, Malaysia
Year and Date
2014-08-22
Invited
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