2015 Fiscal Year Annual Research Report
ジャウィ史料の利用によるマレー民族の形成過程の研究
Project/Area Number |
24720334
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Research Institution | The Toyo Bunko |
Principal Investigator |
坪井 祐司 公益財団法人東洋文庫, 研究部, 研究員 (70565796)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | マレーシア / マレー人 / 民族 / メディア |
Outline of Annual Research Achievements |
1950、60年代にシンガポールで発行されたジャウィ雑誌『カラム』に関して、京都大学地域研究統合情報センターにおける共同研究(「1950・60年代の東南アジア・ムスリムの社会史」)を組織し、メンバーと連携しながら研究を進めた。『カラム』の記事本文が検索可能なデータベースの構築を進めるとともに、共同研究の成果をディスカッションペーパーとして発行した。そこでは、執筆者だけでなく読者にまで分析対象を広げるため、読者投稿をもとにした質疑応答コーナー「千一問」を抽出して分析を行った。そして、読者は結婚などの家族関係や仕事・職場において多様な出自を持つムスリムや非ムスリムと日常的な交渉を持っており、価値観が錯綜する多民族社会のなかで宗教的な正しさを模索したことを明らかにした。これは、マレー民族の形成要素としてのイスラムの重要性を示しており、世俗的な民族主義に関心が集中する当該時期の先行研究の再検討を迫るものである。この成果をもとに、2016年2月にマレーシアで開催した国際セミナーで報告し、現地の研究者と議論を行った。 それとともに、1930年代のジャウィ新聞『マジュリス』とそれをとりまく言論空間の研究を進めた。シンガポール、マレーシア、イギリスにおいて『マジュリス』および同紙が参照している英語紙や行政史料の収集を行い、その分析結果を国内外の学会で発表し、成果を論文にまとめた。そこでは、同紙がマラヤにおけるマレー人の政治的権利をめぐって英語紙と頻繁な論争を行ったこと、その主要な論点はマレー人の定義であり、マレー民族の境界線は非マレー人との相互作用を通じて形成されたことを論じた。 二つの事例から、多民族社会のマラヤにおける脱植民地化の過程において、他者との関係性のなかからマレー民族が形作られたこと、社会を媒介するジャウィによる言論活動が重要な役割を果たしたことを示した。
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