2013 Fiscal Year Research-status Report
国際紛争の処理における住民移動と財産の所有権移転:20世紀ヨーロッパの事例から
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24720340
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
川喜田 敦子 中央大学, 文学部, 准教授 (80396837)
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Keywords | 紛争処理 / 住民移動 / 財産 / 20世紀 / ヨーロッパ / ドイツ |
Research Abstract |
本研究は、20世紀ヨーロッパにおける個人の居住権と財産権への国家の干渉について、国際紛争の処理における住民移動と財産の所有権移転に着目して検討する。そのなかで、「国家成員」概念の成立段階から存在した国民国家による自領域からの不要者の追放という問題が、20世紀にいかに一方で先鋭化し、他方で違法化される契機が与えられていくのか、国家の暴力に対する個人の保護の発想が国際法上のみならず補償の実務においていかに確立していくのか、そこで国際システムはどう機能したのかについて長期的な視野に立って考察する。これにより、近代国家と国民の関係、それを支える国際システムの連関と変容を再検討する視座を獲得する。 具体的には、A:20世紀前半のヨーロッパにおける住民移動と財産の所有権移転、B:第二次大戦の戦後処理、C:20世紀における国際法ならびに人道思想の発展の三領域についてとくに重点的に検討を加える。 平成25年度は、このうち、とくにBについて、第二次世界大戦後の戦後処理における戦争賠償問題と在外財産の関係について検討した。第二次世界大戦後の戦後処理に関する欧語研究の成果は、邦語研究においてはこれまで十分に参照されてきていない。その現状に鑑みて、今年度は、ドイツ・ベルリン州立図書館において同領域に関する二次文献調査ならびに同館所蔵の公刊史料、一次史料の確認・分析を行ない、その成果をもとに第二次世界大戦の戦後処理の全像を明らかにし、在外財産(とくに私有財産)問題の展開をその文脈のなかに位置づけることを試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究が設定した三つの研究領域(A:20世紀前半のヨーロッパにおける住民移動と財産の所有権移転、B:第二次大戦の戦後処理、C:20世紀における国際法ならびに人道思想の発展)のうち、平成25年度は、とくにBについて、本研究課題の中心的な対象地域であるドイツを中心に調査を行なった。平成25年8月のベルリン州立図書館での調査により、同領域に関する欧語研究文献が従来認識されてきた以上に充実していることが明らかになったため、その成果に立脚して、ベルリン州立図書館が所蔵する公刊史料、一次史料を参照しつつ、1950年代前半までの時期のヨーロッパを中心に第二次世界大戦の戦後処理の全像を明らかにし、その成果を論文としてまとめた(平成26年度刊行予定)。全体としては、計画はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、近代国家と国民の関係、それを支える国際システムの連関と変容について、国際紛争の処理における住民移動と財産の所有権移転という観点から見直すことを目的とする。重点的な検討対象としては、A:20世紀前半のヨーロッパにおける住民移動と財産の所有権移転、B:第二次大戦の戦後処理、C:国際法ならびに人道思想の発展という三領域を設定する。平成26年度は、平成25年度に引き続き、Bについて、ドイツを中心にさらに調査を進める。 第二次大戦後の国境変動にともない、東欧一帯で1300万人をゆうに超える世界史上最大規模に近い複数の住民集団の移動が行なわれた。とくにドイツ系住民の財産はドイツに課せられた戦争賠償の重要な一角となった。この問題については、(i)ドイツ在外財産をめぐる各国間の交渉、(ii) ナチ被害者補償と戦争賠償(在外財産)の連関、(iii) ヨーロッパ地域秩序の再編との関連を明らかにする必要がある。平成25年度の調査で得られた成果に立脚し、平成26年度は、引き続き、これらの三つの観点から研究を進める。 なお、同領域に関する先行研究が当初の想定以上に潤沢であったことから、平成25年度は文書館史料ではなく公刊史料ならびにベルリン州立図書館所蔵の一次史料の分析にとどまり、文書館での調査にいたらなかった。平成26年度は、とくに在外財産返還交渉について、ドイツ外務省政治文書館(在ベルリン)の所蔵資料を中心に検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
購入を計画していた書籍ならびに消耗品について、一部の入荷が遅れたため。 上記の研究を遂行するため、平成26年度の研究費の使途としては、①公文書館(ドイツ外務省政治文書館(在ベルリン)予定)ならびにベルリン州立図書館等での史資料収集のため、ドイツに渡航する際の費用として使用する、②上記調査の際の文献複写費、③その他参考文献の購入のための文献購入費、④研究を遂行するために必要な消耗品購入費等を予定している。 なお、次年度使用額(59,481円)については、当初の予定どおり、③(文献購入費)、④(消耗品購入費)として平成26年度中に使用する。
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