2015 Fiscal Year Research-status Report
国際紛争の処理における住民移動と財産の所有権移転:20世紀ヨーロッパの事例から
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24720340
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
川喜田 敦子 中央大学, 文学部, 教授 (80396837)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 紛争処理 / 住民移動 / 財産 / 20世紀 / ヨーロッパ / ドイツ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、20世紀ヨーロッパにおける個人の居住権と財産権への国家の干渉について、国際紛争の処理における住民移動と財産の所有権移転に着目して検討する。そのなかで、「国家成員」概念の成立段階から存在した国民国家による自領域からの不要者の追放という問題が、20世紀にいかに一方で先鋭化し、他方で違法化される契機が与えられていくのか、国家の暴力に対する個人の保護の発想が国際法上のみならず補償の実務においていかに確立していくのか、そこで国際システムはどう機能したのかについて長期的な視野に立って考察する。これにより、近代国家と国民の関係、それを支える国際システムの連関と変容を再検討する視座を獲得する。 具体的には、A:20世紀前半のヨーロッパにおける住民移動と財産の所有権移転、B:第二次大戦の戦後処理、C:20世紀における国際法ならびに人道思想の発展の三領域についてとくに重点的に検討を加える。 平成27年度は、このうち、とくにC「20世紀における国際法ならびに人道思想の発展」に関連して、20世紀の住民移動をめぐる関係各国(とくにドイツ、ポーランド)の記憶形成について調査するとともに、他地域における戦争被害や災害被害等に関する記憶形成との比較をあわせて行い、成果の一部をまとめた論考を発表した。また、A、Bについても、第二次世界大戦後の住民移動を中心に検討するために、平成25年度、平成26年度に引き続き、ドイツ・ベルリン州立図書館において同領域に関する文献調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究が設定した三つの研究領域(A:20世紀前半のヨーロッパにおける住民移動と財産の所有権移転、B:第二次大戦の戦後処理、C:20世紀における国際法ならびに人道思想の発展)のうち、平成25年度にはとくにBについて、ドイツでの文献・史資料調査に基づいて検討を行った。平成26年度は、とくにAに関連して、住民移動という思想の形成と実施についてヨーロッパのみならずアジアも視野に入れて検討するための比較の枠組みを検討する作業を行い、その成果を各種の研究会、学会報告等にて発表した。 平成27年度には、とくにCを中心に検討を行い、成果を論文のかたちにまとめて刊行した。ただし、平成27年度の海外調査は日数を削減して実施したため、それを補うために研究期間を1年間延長することとした。全体としては、計画はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、近代国家と国民の関係、それを支える国際システムの連関と変容について、国際紛争の処理における住民移動と財産の所有権移転という観点から見直すことを目的とする。重点的な検討対象としては、A:20世紀前半のヨーロッパにおける住民移動と財産の所有権移転、B:第二次大戦の戦後処理、C:国際法ならびに人道思想の発展という三領域を設定する。 本研究は、平成27年度に国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)に採択され、平成29年度にドイツでの研究滞在を予定している。そのため、平成28年度には、これまでの成果に立脚し、A~Cの各領域における成果を総括するとともに、国際共同研究加速基金の課題につなげるための展望を得ることが目標となる。本研究の枠内では、20世紀ヨーロッパの事例を検討してきたが、なかでも最大の事例である第二次世界大戦後の大規模な住民移動およびそれに伴う民族秩序の再編は、ヨーロッパのみならず東アジアでも比較可能な現象が同時に進行した。この二つの事例は、ソ連勢力圏をはさんでユーラシア大陸の両端における冷戦の最前線で生じた地域秩序の再編としてとらえたときに、その世界史的な意味とスケールが明らかになる。本年度は、この全体像を念頭に、住民移動と戦後秩序形成をめぐる日独間・欧亜間比較の展望を得ることを目指す。
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Causes of Carryover |
学内外の用務の都合により、海外での資料収集の期間を予定よりも短縮したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の研究を遂行するため、平成28年度の研究費の使途としては、①公文書館(ドイツ外務省政治文書館(在ベルリン)予定)ならびにベルリン州立図書館等での史資料収集のため、ドイツに渡航する際の費用、②上記調査の際の文献複写費、③その他参考文献の購入のための文献購入費、④研究を遂行するために必要な消耗品購入費、等を予定している。 なお、次年度使用額(574,583円)については、当初の予定どおり、①調査のための渡航費用、②文献購入費、③消耗品購入費として平成28年度中に使用する。
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