2012 Fiscal Year Research-status Report
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24720346
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kochi National College of Technology |
Principal Investigator |
江口 布由子 高知工業高等専門学校, 総合科学科, 講師 (20531619)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 優生学 / 児童福祉史 / オーストリア第一共和国 / ウィーン |
Research Abstract |
本年度の業績として、まず現在の研究状況の整理として、35点の書籍購入や雑誌論文等の収集を行い、これをもとに8月に近現代史研究会サマーセミナーにて学会報告を行った。また、「国民への無関心national indifference」など新しい分析概念を用いて東中欧史をリードしているT.ザーラの、戦間期から第二次世界大戦直後までの国際子ども福祉を対象とする著作の書評を発表した。 (2)に関しては、3月にオーストリア国立文書館を調査した。とくに、児童福祉関連外郭団体「オーストリア児童福祉センター」の機関誌”Zeitschrift fuer Kinderschutz, Familien- und Berufsfuersorge, 1923-1938”小児医学従事者による知的障害児教育(「治療教育学」)専門誌”Eos. Zeitschrift fuer Heilpaedagogik, 1925-1938”、および社会行政省国民健康局に関連する刊行書籍などを精査した。 これらの資料を現段階で分析したところによると、次のような結果が得られた。①1920年代以後、児童福祉行政の外郭団体であったオーストリア児童福祉センターにおいて、徐々に政府統計局に関係する人口学系研究者の発言力が強まっている。「優生学」という名称の使用はまれであるが、新マルサス主義的な観点や、人間経済学的な発想が濃厚であり、とくに遺伝学の知識の利用という関心が深まっていることが確認された。②一方、H.アスペルガーなども関わり、カトリック系医療専門集団とも近しい関係にあった知的障害児教育(「治療教育学」)のサークル内では、優生学への抵抗感が強く、1930年代初等には明確な反対表明をしていることを見いだした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究計画では、以下の2点を重点的に実施することにしていた。すなわち、(1)現時点での戦間期オーストリアにおける優生思想の普及と展開についての研究状況を整理すること、(2)その整理をもとに現地での資料調査を行うこと、である。 研究実績にもあるとおり、本年度はほぼ達成したと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、まず東中欧全域におけるドイツ・ナショナリズム運動と優生思想の関係について重点的に研究をすすめたい。なかでも本研究で対象としている児童福祉や児童保護事業に関して、教育社会学や教育社会史などの近接領域の関係学会での研究報告を行い、知見を得て分析視角を磨いていきたい。 次いで、社会民主党が実権を握ったウィーン市での福祉政策における優生思想の位置づけを改めて考えたい。この点については、これまでの批判的研究のなかで、オーストリアにおいては社会民主党の福祉政策が、優生思想の普及の牽引役であったという指摘が行われてきた。とくに強調されるのが、ウィーン市での福祉制度の立役者J.タンドラーはオーストリアの優生思想の代表的な論客でもあったという事実である。しかし、タンドラーをはじめとするエリートの考えが、政策を通してストレートに人々に伝わっていったわけではないことは容易に予想できる。このような考えに立って、「赤ウィーン」の諸政策を整理すると共に、全国ネットワークを持つ児童保護団体「子どもの友」に注目し調査する。また、この結果を東欧史研究会など専門学会で報告したい。 さらに、農村地域での普及ということを念頭に、捨て子院などの旧来のシステムとの接続を見据えながら、第一次世界大戦後に確立される里保護制度や養子縁組制度を調査し、「生物学的」な親子関係が特権的な地位を得るなかで「優生」の思想がどのように位置づけられたのかを探求したい。この点については、論文の形で準備をしている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
現在のところ、備品費として、本研究の遂行にあたって重要な基礎文献を購入するため250千円程度、国内旅費として、専門知識の提供を受けるために隣接分野の研究者を招聘・訪問する経費として80千円程度、外国旅費として600千円程度、消耗品関連として、ウェブ公開のためのパソコン関連ソフトとして450千円を見込んでいる。
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Research Products
(4 results)