2012 Fiscal Year Research-status Report
東アジアにおける先史時代の遠隔射撃狩猟の出現に関する実験考古学的研究
Project/Area Number |
24720350
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐野 勝宏 東北大学, 文学研究科, 助教 (60587781)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 考古学 / 先史学 / 狩猟 / 実験考古学 |
Research Abstract |
本研究は、東アジアから出土する様々な形態の槍先形石器の投射実験を行い、投槍器の使用を裏付ける量的に保証された評価基準を構築する。そのうえで、東アジアの旧石器時代資料を調査し、東アジアにおいて投槍器を用いた遠隔射撃狩猟が出現する時期を解明する。 平成24年度は、槍先レプリカの製作、製作された槍先レプリカの投射実験、実験試料の観察・記録化を進めた。その結果、現状までに刺突、手投げ、投槍器、弓矢、といった狩猟法の違いに応じて衝撃剥離の発生頻度、衝撃剥離の規模、試料の残存度、が変化することを確認した。一方、先端部形状の違いが衝撃剥離の発生パタンに影響を及ぼすことも明らかとなった。平成25年度以降に予定している、様々な形態の槍先レプリカの投射実験により、個別タイプ内でのみ有効な相関と個別タイプを超えた相関を把握することが可能となる。 平成24年度は、考古資料の分析も進めた。秋田県、岩手県、山形県、宮城県、並びに九州地方から出土した、槍先形石器を観察した。観察の結果、当該地域から出土した後期旧石器時代初頭の槍先形石器に狩猟時についたと考えられる衝撃剥離を認めることができた。これまでの分析では、時代が新しくなるに連れて、衝撃剥離の頻度が高くなり、またその規模も大きくなる傾向が確認されている。これらのデータは現在整理・解析中であり、より多くの考古遺跡出土資料の分析結果と総合的に検討することで、日本列島における狩猟法の進化、特に投槍器使用の開始時期が解明されるであろう。 なお、本研究成果の一部を、ポルトガル・ファロで開催された国際使用痕研究会議、東北大学で開催された第26回東北日本の旧石器文化を語る会、同じく東北大学で申請者が主催したシンポジウム「旧人・新人の狩猟具と狩猟法」で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、槍先レプリカの投射実験及びその整理・記録化と考古資料の分析を予定し、次の通り計画を実施した。 槍先レプリカの投射実験に関しては、予定通り2タイプの槍先レプリカの投射実験を遂行することができた。これらのタイプの槍先レプリカは、肉眼及び顕微鏡での観察をおこない、衝撃剥離ならびに微細衝撃線状痕の写真撮影をおこなった。更に、実験試料の基本属性をデータベースに登録した。したがって、平成25年度以降、予定通り残り3タイプの槍先レプリカの投射実験及び実験試料の観察・記録化を進めることができる。 考古資料の分析に関しては、国内の資料調査分析を先行して進めた。その結果、当初平成25年度以降に予定していた九州地方の考古資料調査を前倒しで進めることができ、当該期の狩猟具先端部に残された狩猟痕跡の写真撮影及びデータベース作成をおこなうことができた。これにより、東北並びに九州地方の狩猟法進化に関する傾向を予定より早く把握することができた。またこれに伴い、平成25年度初頭に予定していた研究計画の再検討を平成24年度末におこなうことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度も引き続き投射実験と考古資料調査を進める。6月、10月に投射実験を予定している。この2回の投射実験後、実験試料の観察・記録化を進め、実験の改善・再実験の必要性を検討する。必要が生じた場合は、1月以降に再実験を遂行する。 考古資料調査に関しては、国内資料の分析を予定より前倒しで進めることができたため、投槍器の開始時期を同定するために必要な資料の選択、分析方法の改善をおこなうことができた。特に顕微鏡を用いたミクロ痕跡の分析が、信頼性の高い解釈を得る上で重要であることを確認することができた。したがって、大きな成果が見込まれる学術的価値の高い遺跡を集中的に分析することとした。これを受け、山形県高倉山遺跡、秋田県縄手下遺跡、岩手県峠山牧場遺跡、から出土した資料を顕微鏡を用いて高倍率で観察する。 一方、モンゴル科学アカデミー考古学研究所の資料は、当初予定していたよりも分析可能な資料が少なく、大きな成果を望めない可能性が生じたため、モンゴルでの資料調査は中止する。代わって、より当該分野研究への貢献度の高い資料が蓄積している韓国での資料調査期間を延長する。韓国は日本同様、旧石器時代の資料が充実した地域である。したがって、当初計画よりも定量的で信頼性の高いデータを基に、韓半島から日本列島にかけての地域における投槍器使用の開始時期を明らかにすることができる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度直接経費受領額の内、229,005円が未使用となった。これは、モンゴルへの調査旅行を中止し、国内調査旅を前倒しでおこなったことによる差額である。これによって生じた次年度使用額は、平成25年度でおこなう韓国での調査旅行期間を長くし、それによって発生する旅費に当てる。したがって、平成25年度請求額1,200,000円と平成24年度未使用額229,005円を加えた1,4229,005円を平成25年度に使用する見込みである。平成25年度請求額1,200,000円の内、物品費に270,000円、旅費に540,000円、人件費・謝金に350,000円、その他に40,000円を使用する。これに、次年度使用額229,005円を旅費に加え、旅費は合計769,005円を使用予定である。 物品では、旧石器研究関連書籍、投射実験に使用する槍の柄、ボウガンの弦、高解像度PCディスプレイ、等を購入予定である。 旅費は、国内では東北地方への調査旅行、海外では韓国の朝鮮大学への調査旅行を予定している。韓国への調査旅行は当初2週間を予定していたが、4週間に延長する。この他に、学会での成果報告、研究協力者との打ち合わせに伴い旅費を使用する。 人件費・謝金は、投射実験試料の製作、実験補助、実験試料の観察・記録化及びデータベース作成の補助に使用する。 その他として、印刷費と複写費を予定している。
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