2013 Fiscal Year Research-status Report
鉄器の出現と普及における流通網及び社会変化に関する日韓比較研究
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24720351
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
中村 大介 埼玉大学, 教養学部, 准教授 (40403480)
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Keywords | 朝鮮半島 / 鉄器 / 流通網 / 比較考古学 |
Research Abstract |
朝鮮半島中西部の青銅器時代後期から初期鉄器時代(紀元前8~2世紀)の調査を行い、流通網の復元を行った。石器は流通が把握しやすい器物であるが、朝鮮半島では、拠点集落と周辺集落間の生産・流通関係が若干確認できる程度で、拠点集落間にわたる広域流通については不明瞭であった。そこで玉類の理化学的分析を行ったところ、朝鮮半島東南部から中西部への碧玉の流通及び、中西部内の流通を明確にすることができた。初期鉄器時代でも玉類の流通には変化がないことから、青銅器時代の流通網は機能し続けている可能性が高い。 鉄器は粘土帯土器文化の流通網を通じてもたらされるが、集落などの生活域から出土しない。ところが、紀元前3世紀後葉頃になると、生活域では石斧などの石製利器が激減し、再利用品が僅かに出土するだけになる。この様相は、日本考古学で石器から鉄器への転換に関する議論が続いている近畿地方の弥生時代後期の様相と類似する。また、いくつかの事例から、朝鮮半島の鉄器生産は再加工の段階であったことも把握できた。日本列島では鉄器の再加工が出現する段階には、石器生産は減少せず、むしろ増加傾向にあるので、朝鮮半島では意外に多くの製品或いは再加工可能な破損品が搬入されていた可能性が出てきたといえる。 しかし、本格的な鉄器生産までは500年以上かかっており、技術移入自体は円滑ではない。この問題をヨーロッパの事例と比較するため、ケルト人の地域の資料を実見し、検討した。地中海世界から内陸部までの鉄器技術の移入は早く、100~300年ほどで達成される。現時点では、この差違は①青銅利器の有無、②中国の鋳造鉄器を中心とする技術体系とヨーロッパの鍛造鉄器を中心とする技術体系との相違が関わると推定している。本年度の研究内容は以上であるが、その意義は流通網の復元と比較考古学による東アジアの鉄器技術拡散の特性を明らかにした点にある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は、玉類の理化学的分析を多く行い、朝鮮半島中西部の流通網を概ね復元することができた。また、青銅器時代から鉄器時代の石器の変化についても把握することができ、日本列島の鉄器化とは異なる変化の様相を明らかにすることができた。朝鮮半島についての分析が進んだ影響で、ヨーロッパにおける鉄器化を考える余裕ができ、地中海世界の周辺地域と東アジアの周辺地域における鉄器化について比較することができた。その結果、鋳造鉄器を中心とする中国の鉄器生産技術が、東アジアの鉄器化の特性に大きくかかわっている可能性を導き出すことができた。従って、本年度の成果は、本来の分析内容だけでなく、当初の予定よりも広い視点からの考察を可能としたいえ、最終報告の方向性にも影響を与えたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は最終報告の年であり、これまでの分析結果を総合する予定である。①青銅器時代の流通網の復元、②初期鉄器時代の流通網の復元、③鉄器生産の展開、④比較研究といった項目をそれぞれ整理する。その際、朝鮮半島の鉄器の由来である中国東北地方の様相を検討する必要があるため、遼寧省の本渓博物館、または撫順博物館において資料調査を行う予定である。当初は2~3月に予定していたが、先方との関係もあり、8月に遂行する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は、前年度の科研費及び本年度の個人研究費で行った韓国調査により、多くの分析資料が集まり、予定より早い段階で資料収集と分析を行うことができた。そのため、予算の使用を再考する必要が生じた。考古学的な分析はすでに十分に行うことができたので、前年度からある程度計画していたが、本科研費の意義を強化し、より視野を広げるため、鉄器化における比較考古学を行うことにした。そこで、ヨーロッパの鉄器化について検討するため、ドイツにて調査を行った。最後に補足の韓国調査を入れたが、来年度のことを考え、本年度の予算を使い切ることはしなかった。 来年度は最終報告であるので、報告書の刊行を予定している。すでに投稿した関連論文があるので、それらにドイツ調査の成果をいれる予定である。研究協力者の論文も含むと予定より分量が多くなる可能性が生じているため、今年度生じた差額はこの報告書の出版費に組み込みたい。
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