2012 Fiscal Year Research-status Report
漢帝国における武器生産と手工業の展開に関する考古学的研究
Project/Area Number |
24720353
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
内田 宏美 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 研究員 (50574571)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 考古学 / 中国 / 漢 / 武器 / 生産 / 手工業 / 弩 / 漆器 |
Research Abstract |
本研究の目的は、矢を機械的に発射する射撃具として開発された「弩」の分析を通じて、漢帝国の形成や発展に深く関わった武器生産や官営手工業の実態を解明することである。目的を達成するために取り組む調査研究は、以下の4点にまとめられる。1)資料調査を実施して基礎データの蓄積をはかり、矢の発射装置である「弩機」の規格の統一化について検証する。2)弩を構成する弩機と「骨簽(こっせん)」に刻記された銘文の内容を整理し、弩の製作に関わった官営工房「工官」の組織体制の実態と変遷を明らかにする。3)「居延漢簡」等の簡牘に見える弩や工官に関する記述を抽出し、弩の銘文内容と比較する。4)弩とは異なる工官で製作された「漆器」の銘文と比較し、弩の生産組織の実態を相対化させる。 初年度は主として1)の課題に取り組んだ。漢代の武器生産や手工業に関わる資料を広く収集するとともに、国内外の研究機関において資料調査を実施した。東京大学駒場博物館では、朝鮮半島の伝楽浪郡出土とされる弩の実見・記録を行った。財団法人東洋文庫では、「梅原末治考古資料」の目録をもとに、楽浪郡の漢墓から出土した弩および青銅鏃の図面・写真・調査記録などを収集した。また、モンゴルでは科学アカデミー考古研究所が所蔵する漢代の弩機、鏃の調査を実施した。考古研究所では紀年や製作者名が刻まれた漆器も実見し、4)の課題に関わる予備的成果を得ることができた。 これまでの研究成果については、2013年3月8日北京大学中国古代史研究中心の学術講座において、「関于漢長安城出土的骨簽与弩機考察」として発表した。あわせて中国の研究者と意見交換を行い、工官や器物生産に関わる問題について新たな知見を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は基礎データの充実をはかるため、国内外の研究機関で関連文献の収集と資料調査を中心に実施した。当初予定していた中国での資料調査をモンゴルの研究機関へ変更したが、近年の発掘調査で出土した弩機や鏃および漆器の実見・記録作業や、研究者との意見交換を通じて、武器・器物生産とその分業化に関する新たな情報を入手することができた。よって現在までのところ研究は順調に進展していると言え、次年度も当初の計画・方法に沿って研究を推進する。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の期間は平成24年度~26年度を予定している。初年度の調査研究を順調に進めることができたため、次年度も申請時に設定した調査研究計画に沿って研究を推進する。国内外での資料調査や学会発表と並行して、これまで集成したデータを整理し、弩機や骨簽、漆器の銘文の分析や、武器・器物の生産を担った官営工房の組織の実態解明に取り組む。 なお、次年度は研究代表者の所属機関が変更となる。新たな所属機関となる國學院大學文学部の吉田恵二教授からも、本研究に対する協力・助言が得られることとなった。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は、主として資料調査を予定していた国外の研究機関および渡航時期を変更したこと、またそれに伴う謝金の支払いがなかったことによって生じたものである。 申請者は、次年度中国吉林大学辺疆考古研究中心が8月に開催する国際学会への参加を予定していることから、上記の次年度使用額は学会参加・研究発表のための旅費に充てる。
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