2013 Fiscal Year Research-status Report
漢帝国における武器生産と手工業の展開に関する考古学的研究
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24720353
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Research Institution | Kokugakuin University |
Principal Investigator |
内田 宏美 國學院大學, 文学部, 講師 (50574571)
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Keywords | 考古学 / 中国 / 漢 / 武器 / 生産 / 手工業 / 弩 / 漆器 |
Research Abstract |
本研究の目的は、矢を機械的に発射する射撃具として開発された「弩」の分析を通じて、漢帝国の形成や発展に深く関わった武器生産や官営手工業の実態を解明することにある。研究代表者が目的を達成するために取り組む調査研究は、以下の4点にまとめられる。1、資料調査を実施して基礎データの蓄積をはかり、矢の発射装置である青銅製「弩機」の規格の統一化について検証する。2、弩を構成する弩機と「骨簽(こっせん)」に刻まれた銘文の内容を整理し、弩の製作に関わった官営工房「工官」の組織体制の実態とその変遷を明らかにする。3、「居延漢簡」等の簡牘に見える弩や工官に関する記述を抽出し、弩の銘文内容と比較する。4、弩とは異なる工官で製作された「漆器」の銘文と比較し、弩の生産組織の実態を相対化させる。 本年度は2、3、4の課題に取り組んだ。課題2については、弩機に刻まれた銘文を集成するため、台湾の故宮博物院国書文献館に出張した。国書文献館では、研究代表者がこれまで国内で入手することができなかった文献を中心に閲覧し、必要な箇所を複写した。3については、台湾の中央研究院が公開する漢籍や出土簡牘のデータベースを利用し、弩や工官名が記された箇所を抽出・整理した。また、中央研究院歴史語言研究所の歴史文物陳列館にも赴き、研究所が所蔵する簡牘や銘文が刻記された弩矢などを見学した。4については、モンゴル科学アカデミー考古学研究所およびモンゴル国立博物館において、漆器の観察・記録作業を行った。また、紀年銘漆器の集成も行い、分布状況や銘文の内容について整理した。 なお、これまでの研究成果については学会発表(第9回東京大学駒場キャンパス技術発表会、日本中国考古学会2013年度大会)、雑誌論文(『環日本海研究年報』第23号)などを通じて発信した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は主に、国内外の研究機関での資料調査とこれまでに収集した資料の整理・比較検討を行った。当初予定していた中国での資料調査をモンゴルと台湾の研究機関へ変更したが、漆器や弩機、弩矢の実見・記録作業および研究者との意見交換により、漢帝国の手工業に関わる重要な情報を得ることができた。また、これまでの研究成果については、学会発表や雑誌論文の執筆を通じて発信することができた。よって現在までのところ、研究代表者の研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の期間は、平成24年度~26年度を予定している。研究は概ね順調に進展しているため、今後も申請時に設定した調査研究計画に沿って研究を推進する。最終年度にあたる次年度は、これまでの資料調査や文献収集等によって得られたデータを整理・統合し、本研究の目的である漢帝国における武器・器物生産や官営手工業の実態解明を目指す。また、研究成果を広く周知するため、中国語や英語による論文投稿や報告書(資料集)の作成を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究代表者の所属機関が新潟大学(新潟県)から國學院大學(東京都)へ変更となったことに伴い、国内出張の回数が減少した。また、海外研究機関での資料調査の際に想定していた専門知識の提供に対する謝金の支払いが発生しなかった。以上2点の理由により、次年度使用額が生じた。 研究代表者は次年度研究総括を行うが、補足調査の必要が生じている。よって、次年度使用額はその調査のための出張旅費や、関連図書を購入するための費用に充てる。
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