2014 Fiscal Year Research-status Report
漢帝国における武器生産と手工業の展開に関する考古学的研究
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24720353
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Research Institution | Kokugakuin University |
Principal Investigator |
内田 宏美 國學院大學, 文学部, 講師 (50574571)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 考古学 / 中国:モンゴル / 漢 / 武器 / 生産 / 手工業 / 弩 / 漆器 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、矢を機械的に発射する射撃具として開発された「弩」の分析を通じて、漢帝国の形成や発展に深く関わった武器生産や官営手工業の実態を解明することにある。研究代表者が目的を達成するために取り組む調査研究は、以下の4点にまとめられる。1、資料調査を実施して基礎データの蓄積をはかり、矢の発射装置である青銅製「弩機」の規格の統一化について検証する。2、弩を構成する弩機と骨簽(こっせん)に刻まれた銘文の内容を整理し、弩の製作に関わった官営工房「工官」の組織体制の実態とその変遷を明らかにする。3、「居延漢簡」等の簡牘に見える弩や工官に関する記述を抽出し、弩の銘文内容と比較する。4、弩とは異なる工官で製作された「漆器」の銘文と比較し、弩の生産組織の実態を相対化させる。 平成26年度は主に2と4の課題に取り組んだ。課題2については、台湾の故宮博物院図書文献館等に出張し、銘文の刻まれた弩機の拓本等を収録した文献を閲覧、複写した。さらに、漢帝国における武器生産体制の特徴を明確にするため、漢代以前(戦国時代から秦代)、漢代以降(魏晋時代)の銘文武器に関する文献についても収集を行った。課題4については、モンゴル科学アカデミー考古学研究所の協力を得て、近年新たに発掘された紀年銘漆器の観察・記録作業を行った。また、これまで集成した紀年銘漆器の銘文を整理し、弩機と骨簽の銘文と比較するためのデータを整えた。 なお、これまでの研究成果については2015年3月10日の香港中文大学での招待講演において、「漢代武器生産的相関問題(漢代の武器生産に関する一考察)」として発表した。あわせて、香港の研究者と意見交換を行い、漢代の手工業に関わる問題について新たな知見を得たほか、中国・香港での研究成果の公開方法に関して助言をいただいた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は主に、国内外の研究機関での資料調査のほか、これまでに収集した資料の整理・比較検討を行った。台湾とモンゴルでは当初の予想よりも多くの資料が見つかり、本研究の目的である漢帝国の手工業組織の実態解明に関わる重要な情報を入手することができた。また、これまでの研究成果については、香港中文大学での招待講演等を通じて発信し、一定の評価を得ることができた。よって現在までのところ、研究代表者の研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の期間は、平成24年度~27年度である。次年度が本研究の最終年度にあたることから、これまでの資料調査や文献収集等によって得られたデータを統合し、本研究の目的である漢帝国における武器・器物生産や官営手工業の実態解明を目指す。調査研究の成果は、国際会議における口頭発表、中国の学会誌への論文投稿などによって国際学会レベルで発信していく。さらに、図や写真を多用した資料集的活用が可能な報告書も刊行する。
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Causes of Carryover |
研究代表者はこれまで、国内外の研究機関で関連文献の収集や出土資料の調査を実施してきたが、台湾とモンゴルにおける調査で当初想定していたよりも多くの文献や出土資料が見つかり、収集した資料の整理や比較検討、研究の総括に時間を要することとなった。 これに伴い、代表者が平成26年度に予定していた論文投稿に関わる翻訳・校閲費や、報告書印刷費などの支払いが発生しなかったことから、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究代表者は研究成果を社会・国民に発信する方法として、外国語による論文投稿と資料集的活用が可能な報告書の刊行を予定している。よって次年度使用額は、論文の翻訳・校閲費と報告書印刷費、論文の別刷と報告書を研究者・研究機関へ郵送するための通信費などに充てる。
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