2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24720360
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
中門 亮太 早稲田大学, 會津八一記念博物館, 助手 (60612033)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 民族考古学 / 土器型式 / 土器づくり民族誌 / パプアニューギニア / ミルンベイ州 / 縄文土器 |
Research Abstract |
2012年度は、パプアニューギニア・ミルンベイ州における土器づくり民族誌の調査を実施した。調査では、2006年に予備的な調査を行ったイーストケープ・ケヘララ村に重点を置き、各世帯が所有する土器のデータ収集(拓本、実測、写真撮影等)、土器づくりおよび親族組織に関する聞き取りを中心に行った。また、国内では国立民族学博物館の収蔵品の調査を行った。 調査地では、日常調理に金属器が導入されてきているが、儀礼時の調理は未だ土器を用いて行う場合が多い。これまでの調査では、儀礼が土器製作や他地域からの搬入・搬出の契機となりうることを指摘した。2012度調査では、儀礼時の調理における土器の使い分けを把握することができた。肉や魚、タロイモなどの調理は、一般的な調理土器である「ギルマ」が用いられるが、近年は大型で薄手であるという理由からワリ島産の土器が好んで用いられる。一方で、「ハバヤ」という在地土器は、儀礼用調理の中でも特にヤムイモの団子を作る際に用いられる。「ギルマ」が金属器やワリ島の土器に押されつつある状況に対し、「ハバヤ」は基本的に各世帯で広く所有されており、社会の中で重要な位置づけがなされていた。土器の器種と用途、社会的意味などについて、非常に示唆に富む事例である。 また、ワリ島の土器は大型で薄手であることから評価が高いため、ミルンベイ州で広く流通しており、それを模倣する製作者がいることを確認した。特に、小型~中型の土器は、モノの移動のみであっても模倣される事例を確認できた。しかし、製作技術の違いから、大型土器の模倣は、居住や婚姻など人の移動が重要である。土器の変化は決して単純ではなく、モノの移動、人の移動、技術の移動など、様々な要因が絡み合っているものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ミルンベイ州における土器づくり民族誌の調査は、2006年度から継続して行っており、土器データや集落配置の記録など、基礎的な情報が蓄積されてきている。2012年度に収集した土器データは約70点で、これまで蓄積してきた土器データの総数は約300点にのぼる。また、GPS記録に基づいた地図を作成しており、製作者や土器の移動、親族組織の広がりなどを明確にとらえることが可能である。 そのため、本研究ではこれらのデータを基に、土器の型式変化と分布の背景に関して、いまだ不明瞭な部分に焦点を絞ることができ、限られた現地調査期間内でも計画的に調査を進めることができた。また、これまで現地で築いてきた協力者との信頼関係も有り、現地住民も調査には理解を示してくれ、非常に協力的であった。 2012年度調査では、特定器種の社会的な位置づけや、模倣土器の製作に関して大きな収穫があった。模倣土器が、在地土器やモデルとなった地域の土器とどのような相違を持ち、物質文化としてどのような情報を有しているかを把握できれば、考古資料の背景にある人々の技術体系や交流など、社会的な側面を引き出せるであろう。この点については、2012年度に収集した土器データの詳細な分析を進めるとともに、残る課題を抽出し、2013年度調査において考察を加えたい。 また、最終的な目的である縄文土器研究への還元については、今年度は青森県で資料調査を行い、研究の基礎となる土器編年の整理を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
2013年度は、ワリ島および周辺の島を中心に調査を行う。ワリ島は、ミルンベイ州における大規模土器生産地であり、その影響はこれまで調査を行ってきたイーストケープ地方にも及んでいる。イーストケープ地方では多数のワリ島産の土器が搬入されており、模倣製作する製作者もいる。ワリ島では、2009年に予備的な調査を行っており、島の地図や親族組織等については基礎的なデータを所有している。2013年度調査では、土器データの収集、聞き取り調査を中心に、ワリ島における土器製作の実態を探る。そのほか、周辺の島々における土器を調査することで、ワリ島を含めたミルンベイ州の土器製作、土器の流通・分布の在り方を探り、土器の地理的分布と、流通過程における型式間の影響関係を齎す要因に関するモデルケースの作成を目指す。 また、本研究における土器の型式変化と分布に関するモデルを、縄文土器研究へ還元するため、東北地方における縄文時代後期の瘤付土器の研究も進める。特に仙台湾周辺地域と北海道という隣接地域の様相が混在する北東北(青森県、秋田県北部、岩手県北部)を中心に、土器に残された痕跡を基に、人々の動きや社会背景を探る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2013年度は、旅費としてパプアニューギニア・ミルンベイ州における民族誌調査を行うための海外旅費60万円、国内におけるミルンベイ州の土器資料・縄文土器の資料調査のための国内旅費25万円を使用する予定である。 また、2013年度は基金の最終年度となるため、成果報告に向けて画像処理ソフト(Adobe Creative Suite 6 Design Standard:7万円)、複合プリンタ(Canon MG5430:1万5千円)、関連図書(15万円)などを購入する。
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