2014 Fiscal Year Research-status Report
古墳時代墓制の終焉過程からみた律令国家形成期の北部九州
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24720370
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Research Institution | Kyushu Historical Museum |
Principal Investigator |
下原 幸裕 九州歴史資料館, その他部局等, 研究員 (30615836)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 古墳文化の終焉 / 北部九州 / 律令国家形成期 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、北部九州地域における古墳文化終焉を考察する上で欠くことのできない古墳出土資料について資料調査を実施するともに、肥前や豊後地域の墓制についての資料を収集し、壱岐・対馬・五島列島などの墓制についても資料収集を行った。 資料調査では、近年発掘調査報告書が相次いで刊行された豊前地域の古墳の様相を整理するため、ヒメコ塚古墳や渡築紫古墳群などの資料調査を実施した。いずれも地域の主要な首長墳や終末期群集墳の事例で、河川(水系)などを単位とする首長系譜の様相が明確になったとともに、墓制の推移について重要な情報が得られた。豊後においても九州では特異な横口式石槨を内蔵する古宮古墳の出土資料や、近隣の長谷横穴墓や城南遺跡方形周溝遺構(火葬墓と推定される)などの出土資料の調査を実施するともに、大分国造の奥津城とみられる横穴式石室墳の現地踏査も行った。横穴墓が卓越する地域における墓制の推移を考察する資料を得ることができた。その一方で、豊前・豊後などの東部九州の墓制の理解には、地理的に接する西部瀬戸内地域の墓制を整理・検討する必要があることを再認識し、関連資料の収集等を行った。 また、肥前東部地域の墓制について検討を進めていたところ、ちょうど長崎県考古学会が古墳時代墓制についての研究大会を開催した。学会では、近年の最新の調査成果が網羅されており、石棺墓の卓越と、石室墓の点在性を理解する上で多くの情報を得ることができた。現在、こうした点についても成果報告書に向けて整理・検討を行っている。 なお、これまでの研究成果等をもとに九州歴史資料館において、第26回企画展「古墳から火葬墓へ―北部九州における古墳の終焉―」を開催し、筑前・豊前・豊後・肥前の古墳出土資料をもとに、古墳文化終焉の様相を紹介した。併せて解説シートの作成やギャラリートークを行い、成果の公開と理解促進に努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、壱岐・対馬を含めた肥前地域や豊後などの地域についての資料収集を進めたが、とくに肥前地域の墓制については、筑前・筑後・肥後といった隣接地域の墓制の影響を受けることで、非常に複雑な様相を呈していることが明らかとなり、それぞれの古墳資料の系譜的な検討を十分に進めなければ、誤った見解に落ちいってしまう可能性があった。長崎県考古学会による古墳時代墓制を主題とした研究会においても、その系譜観や造墓主体の認識には様々な意見が出されるなど、改めて周辺地域の墓制を含めた鳥瞰的な視座からの検討の必要性を認識した。また、豊前地域については、九州内よりも西部瀬戸内地域における墓制との比較検討が不可欠であることが明らかとなり、先行研究の収集・検討や主要資料の収集等をはじめている。 こうした研究上の課題は、北部九州における中心―周縁関係の実態把握、北部九州と中部九州や東瀬戸内との関係性を明確にできる可能性があり、本研究においても重要な検討課題といえる。しかし、当初計画になかった地域との比較検討となるため、新たな文献や資料の収集と検討が必要となり、その分だけ計画に遅れが生じた。 また、文献史学においても、近年、国造制や屯倉制、部民制、評制などについて多くの議論がなされている。北部九州に限らず、東海や関東においても積極的に文献史料の援用による考察が試みられており、本研究の中でも重要な検討課題となっている。しかし、これまで考古学的な資料の収集・検討を優先的に進めてきているため、文献史学側の研究に対する検討が十分に行うことができていない。
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Strategy for Future Research Activity |
北部九州の墓制に関わる資料については、概ね収集が完了しているが、とくに肥前や豊前などの資料については、複雑な様相を呈することから、慎重に検討を行う必要がある。現在、既に検討を進めているが、肥前東部地域の墓制と肥後地域の墓制との関係性や、玄界灘沿岸地域の墓制との関係性について整理・検討を行い、北部九州の中での地域性や共通性の抽出を行う必要がある。同様のことは豊前地域にもいえることで、豊後地域や西部瀬戸内地域を含めた墓制との比較検討を行う必要がある。 そうした課題については、既に先行研究の収集や資料の分析をはじめており、既に一定の見通しを立てることができているので、北部九州における古墳時代墓制の終焉の様相について、文献史学等の成果なども援用しながら、最終的な結論を導き出したい。 また、先行研究では、畿内の墓制の影響が確認される一方で、北部九州に特有の墓制の在り方が、他地域とは異なる様相をみせることが注目されている。そうした状況があるにも関わらず古墳文化の終焉とともに畿内などと共通した火葬墓や木棺墓などの律令墓制へと移行していくが、墓制の在り方が異なっていた両地域の墓制がどのようにして共通した墓制へと推移していくのかを明確にする必要がある。そうした視点からの検討については、まだ十分に考察できておらず、次年度に研究成果の総括として分析を行う予定である。 なお、当初計画では、古墳文化終焉に関わる終末期墓制の集成とデータベース化を予定していたが、膨大な資料数があり、時間的な制約もあることから、今回の研究の中での完成は断念し、今後公表する雑誌論文等の中で随時基礎資料の提示を行うようにする。
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Causes of Carryover |
ここまでの研究では、北部九州の中心地域とその周縁地域との対比において、対象地域内の共通性や特徴などを明確化する予定であったが、とくに周縁地域については肥後や西部瀬戸内地域など、隣接する対象地域外の墓制との共通性や関連性を検討する必要が生じてきたことから、本年度よりそうした地域の先行研究や資料の抽出を補足的に行っている。また、対象地域内においても、新たに本研究にとって不可欠な発掘調査事例の正式報告書が刊行されたことから、資料の検討を追加して行い、最終的な分析に加える必要が出てきた。そのため、当初の研究計画に対して遅れが生じ、予定していた成果報告書の刊行も次年度に行うこととなった。 また、本年度より開催している成果展示についても周知化を図るために会期を次年度まで設定していることから、借用資料の返却に要する輸送費(美術品専用車)を次年度に繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の研究については、対象資料の収集も行うが、むしろ分析や検討の多くを費やすこととなるため、基本的に使用額の大半は輸送費と印刷製本費として使用する計画である。 平成26年度には年度末となる3月から研究成果展である企画展を開催しているが、会期を平成27年度5月までとしていることから、展示資料の返却にかかる輸送費(美術品専用車)を予定している。また、最終的に、これからの研究の成果を含めた研究成果報告書を刊行する予定であり、刊行にかかる印刷製本費と成果物の配布にかかる郵送費等を見込んでいる。これらの経費が主たるものであり、この他、消耗品費や図書購入費なども必要に応じて使用するが、それほど大きな額ではなく、順調に執行できる状況にある。
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