2012 Fiscal Year Research-status Report
ミクロネシア地域社会の観点からみた太平洋戦争の記憶の動態に関する民族誌的研究
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24720393
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Research Institution | University of Kochi |
Principal Investigator |
飯高 伸五 高知県立大学, 文化学部, 講師 (10612567)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | パラオ / アンガウル / ペリリュー / 文化人類学 / 戦争 / 記憶 / 慰霊碑 / フィールドワーク |
Research Abstract |
本研究の目的は、太平洋戦争の戦場となったミクロネシアの地域社会の観点から、戦争の記憶の動態を検討することであった。2012年度は、パラオでのフィールドワークおよび資料収集を中心に研究を進めた。日本人によって建立された慰霊塔の現状について、パラオ国立博物館および芸術文化局の職員らと意見交換を行いながら現地調査を行った結果、慰霊塔は大多数のパラオ人にとって無関係なオブジェでありながらも、日本人とパラオ人の「ハーフ」がコロールの日本人墓地にある慰霊碑の再配置を行ったり、観光客が降り立つ国際空港のイミグレーションに若い芸術家が慰霊碑の絵画を描いたりするなど、一部のパラオ人の関与が認められた。また、近年地主の要求で慰霊碑が移転を余儀なくされ、新設の記念公園内に再配置されたアンガウル島では、移転後の維持管理の不行き届きや2012年12月の大型台風による甚大な被害に直面しつつも、やはり同島出身の「ハーフ」の子孫が日本側の慰霊碑建立主体との連絡役になっていることが確認された。これらパラオ側のアクターは、日本側のアクターとどのように異なる認識のもとで慰霊碑に関わっているのかを聞き取り調査によって明らかにしようと試みている。また、ナショナルなレベルでは、アメリカ国立公園部局の指導によって、戦争遺跡を保存しようとする動きも認められるが、同時にペリリュー島に建設されたローカルな戦争博物館では、近代博物館に見られるようなモノの分類および展示の方法とは異なるブリコラージュ的な方法で、遺物が収集展示されており、戦争の記憶を再領有しようとする地域社会の人々の動きがあることが明らかになった。このように、民族誌的な観点からパラオの人々の戦争の記憶の再配置に継続して注目していくことによって、戦争当事国のナショナルな記憶に回収されえないローカルな戦争の記憶の可能性を検討するための方途が開けつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、パラオ共和国にて戦後に日本人が建立した慰霊碑に関する基礎資料の収集を進めると同時に、現地の人々の観点からみた戦争の記憶をフィールドワークによって検討することができた。これは概ね当初の計画通りであり、初年度の計画は順調に進展しているといえる。また、1年目のフィールドワークの成果に基づいて、2年目の調査研究に向けた準備も進展している。フィールドワークを行う予定のパラオ共和国の関係各機関との連絡体制も維持されており、北マリアナ諸島訪問の準備も進めている。国内外の研究者との意見交換も順調に進んでおり、将来的な成果発表に向けた準備も進めている。研究成果還元のためのウェブサイト構築が遅れているが、本年度の調査研究を踏まえながら順次作成する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目は引き続きパラオでのフィールドワークを実施し、とりわけローカルな戦争博物館の実態に関するデータを、現地人ガイドに対する聞き取り調査を行いながらあきらかにしていく。また比較対象として、米領自治領北マリアナ諸島のサイパン島にてフィールドワークをおこない、日本人によって建設された慰霊碑の現状、アメリカ記念公園における太平洋戦争の展示やモニュメントの特徴、これら戦争当時国による戦争の記憶のプロジェクトに対して、現地人であるチャモロやカロリニアンがとるスタンスなどをあきらかにしていく。またこの分野ですぐれた研究を行っている国内外の文化人類学者、宗教学者、歴史学者らと意見交換を行い、今後の研究の展望について議論を重ね、研究成果発表に向けた準備を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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