2013 Fiscal Year Annual Research Report
ミクロネシア地域社会の観点からみた太平洋戦争の記憶の動態に関する民族誌的研究
Project/Area Number |
24720393
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Research Institution | University of Kochi |
Principal Investigator |
飯高 伸五 高知県立大学, 文化学部, 講師 (10612567)
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Keywords | サイパン / 戦争の記憶 / 慰霊碑 / 観光 / アメリカ記念公園 / 博物館展示 / チャモロ / カロリニアン |
Research Abstract |
本研究の目的は、ミクロネシア地域社会の観点から、太平洋戦争の記憶の動態を検討することであった。2013年度は、サイパンでの現地調査と資料収集を中心に研究を進めた。第一に、サイパン島北部のマッピ岬(通称バンザイクリフ)およびマッピ山北面の崖(通称スーサイドクリフ)など島内各地に、日本側の団体や個人―旧移住者や太平洋戦争に従事した軍人・軍属など―によって戦後建立された慰霊碑の現状を調査した。近年では、移住者や軍人・軍属の高齢化とともに、当事者やその家族が現地を訪問しにくくなっている一方で、バンザイクリフなどは韓国人や中国人の旅行客にとって絶景ポイントとして消費されていること、現地の人々の間では慰霊の場所というよりは観光地と位置づけられる傾向が強くなっていることなどがあきらかになった。 第二に、日本統治期の記憶が刻印されている場として、ガラパンのアメリカ記念公園と北マリアナ歴史文化博物館を訪問し、展示に関する調査と職員への聞き取り調査を行った。アメリカ記念公園は、アメリカ側の戦死者が追悼され、解放者(liberator)としてのアメリカの姿が構築される場である一方で、日本統治期の病院の建築跡を利用した北マリアナ歴史博物館は、沖縄出身の旧移住者から寄贈された展示品も多く、日本統治期を中心に植民地史を強く喚起する場となっている。双方の施設とも、チャモロやカロリニアンなど現地人の観点からも統治や戦争の体験を提示しようとする意図も認められるが、2014年の米軍上陸70周年を前にして現地社会では慰霊・顕彰への積極的な関与の動きは少なかった。これらの事例から、現地の人々にとっての太平洋戦争の記憶は、かれらが身を置いた戦時中の避難場や収容キャンプでの体験を参照しながら検討する必要があること、そこに日米が主導するナショナルな記憶の構築を相対化する可能性があることなどがあきらかになった。
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