2013 Fiscal Year Annual Research Report
タイ・エイズホスピス寺院におけるケアの医療人類学研究
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24720398
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
鈴木 勝己 早稲田大学, 人間科学学術院, 助手 (10613870)
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Keywords | HIV/エイズ / 看取りケア / キリスト教的博愛 / 倫理的証人 / 苦悩(サファリング) / 生活の質 / 赦し / 忘却 |
Research Abstract |
本研究は、タイ・エイズホスピスにおける看取りケアと死の意味を考察するものである。本年度の研究計画では、中心的な調査地であるホスピス寺院パバナプ寺(ロッブリー)において僧籍を得る予定になっていたが、寺院側の事情によりまだ実現しておらず、今後の課題となった。寺院では外国人ボランティアの中心メンバーとしてケアに従事し、病者・療養者と良好な関係を築いた。その結果、自由会話形式の聴き取り調査により多くの情報を収集することができた。同時にほかの外国人ボランティアに対して指導的な立場から寺院の見解を伝える役割を担った。寺院の病者・療養者が意識している生活のコツは、好ましくない過去を忘れてしまうことであった。忘れることは、生活の質を向上させる技術であり、ホスピスにおけるケアの根源的要素であった。 本年度はホスピス寺院との比較分析を行うために、キリスト教系ホスピス、カミリアン・ソーシャルセンター(ラヨーン)における調査活動を実施した。センターでは、基礎的な調査として同施設の専門医療者である看護師4名にエイズと終末期ケア全般に関する聴き取り調査を実施した。同様に施設の神父2名および事務職員3名に対して感染予防と感染に起因する差別意識に関する聴き取り調査を実施した。センターのケアは、ホスピス人のケアとは異なり、タイ社会に固有のキリスト教的な博愛が基盤になることが明らかになった。両施設の比較分析のポイントとしては、ケアの場における人間関係の構築プロセスの分析があげられる。医療者と病者・療養者はケアの場を構成する。このケアの場に対して、調査者は第三者、すなわち倫理的証人の立場から参与観察した。本研究では調査者からの影響もケアの力学を分析するうえで重要な要素とみなしている。エイズによる死は、両施設の病者・療養者にとって最大の苦悩であるが、その内容には安易な形式化を拒む個人差が確認された。
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