2012 Fiscal Year Research-status Report
ヒトと霊長類二種の遊びの種間・種内比較による「環境-認知-遊び」三者関係の解明
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24720399
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Research Institution | Teikyo University of Science & Technology |
Principal Investigator |
島田 将喜 帝京科学大学, 生命環境学部, 講師 (10447922)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 遊び / 社会的ネットワーク分析 / 人類進化論 / バランス理論 / 認知科学 / タンザニア / トングウェ |
Research Abstract |
本研究の目的の一つは、西部タンザニア粗放的焼畑農耕民トングウェの遊び行動の全体と生活環境を、現地でのフィールドワークを通じ、霊長類二種に対して行ってきたのと同一の方法論によって実証的に評価することである。異なる種間の行動を同一の基準で比較するためには、その理論的枠組みの構築が必須である。 そこでまずこれまでにより得られている、ヒトにもっとも近縁な動物の野生チンパンジーの遊び行動に関するデータを分析し、以下の結果を得た。チンパンジーの社会的遊びは遊びの各瞬間においては、ダイアド間で生じる対称的な遊びがもっとも安定して持続し、複数のダイアドの遊びが同時に狭い空間内で生じ、その結果大きな遊びクラスターが形成される。また非相称的な遊びの配列を避け、対称的な配列へと移行する傾向は、バランス理論により説明できる。これらの知見は国際誌Primates誌に掲載された。 またチンパンジーの社会的遊びが形成するネットワーク分析を行い、以下の結果を得た。遊びに積極的な年少個体が中心的、消極的なオトナが周辺的となるネットワークを形成し、その構造はメンバーやサイズの変動があっても安定的である。コドモ・アカンボウ期のチンパンジー同士では、積極的に社会的遊びに参与することが、親和的社会関係の形成に寄与することが示唆された。これらの結果をまとめた英語論文を出版準備中である。 これらの結果は、チンパンジーの遊びが形成するネットワークや、各瞬間の個体間の配列は、ヒトの子どもや大人のそれとは異なることを示唆する。遊びは、エソロジーや人類学において扱いが難しく研究の遅れている分野だが、バランス理論・社会的ネットワーク分析といった、人類社会の数理社会学的研究に用いられる手法を取り入れることでチンパンジーとトングウェ、さらにはニホンザルといった近縁種間の直接比較を可能した点は、本研究のユニークな点である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
チンパンジーの遊びの研究成果については、さまざまな学会等で公表し、また論文は国際誌に掲載された。野生チンパンジーの遊びにおけるバランス理論と社会的ネットワーク分析の適用により、国際的に高い評価を受けたことにより、今後のトングウェの遊びを分析するための理論的な枠組みを与える作業を達成できた。 一方、諸事情により24年度中のタンザニア渡航が実施できなかったため、トングウェの人々の遊び行動の分析に必要なデータを得ることができなかった。しかしこのことは想定内の事態であり、渡航が不可能になった直後から代替案として、25年度に実施する予定だったチンパンジーとニホンザルのデータ収集と分析に速やかに移行できたため、研究遂行上の不都合は最小限で済んでいる。また、研究協力者との打ち合わせは継続しており、またトングウェ語の語彙収集も続けており、これらは25年度調査時に回収できる。したがって、データの収集に関しては研究が遅れているものの、一方で必要なプロセスについては十分進展したと言える。 予定通り、遊び学のための研究者ネットワークの構築を進め、その成果の一つとして、遊びを子育て、発達心理学、人類進化論の立場から考えるワーキンググループを作り、科研費研究として申請し、今年度より研究分担者として参画する(科研費研究「ヒトの子どもの共同育児に対する適応の研究」(挑戦的萌芽)(代表竹ノ下祐二・中部学院大学))。したがって、遊び学ネットワークの構築は予定通り進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、すでに成果の上がっている比較対象種のチンパンジーの遊びのネットワーク分析、バランス理論の応用については、5月に国際学会や、同様の研究を行っているストラスブール大学およびthe Maison Universitaire France-Japonで講演を行い、成果をアピールする。対応者のSeuer準教授は動物の社会研究へのネットワーク分析の応用を進めている第一人者であり、今後の研究協力の方向性についても話し合う。 これらの成果を受けて、同様の枠組みでトングウェの遊びの分析を行うため、共同研究者との打ち合わせを継続し、8-9月にタンザニア渡航を行う。フィールドワークを通じて、遊び行動・環境のパラメーターを調査し、認知心理学実験を実施する。 今年度は、本科研費研究の最終年度であるため、渡航後は研究協力者とともに速やかにデータ分析を進め、成果の学会発表を行う。 関係学会や研究会等で引き続き遊び研究の重要性をアピールして、遊び学ネットワークの構築を進める。研究者間のネットワークの中でコアメンバーによるワーキンググループを形成し、遊び学会の立ち上げ計画を具体化する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度に予定していたタンザニア渡航が不可能だったため、繰り越した予算分を25年度のタンザニア渡航費用に充当する予定である。それ以外の計画にはほとんど変更はない。 成果公表のための国際学会・研究打ち合わせ出張経費。これらの出張旅費には総額で1,000千円程度の支出を予定している。 タンザニア渡航のための出張旅費と、予防接種や調査許可取得などの渡航準備にかかる諸経費、また現地での研究協力者への謝金。これらは総額1,500千円程度の支出を予定している。 長期フィールドワークに必要な物品の購入およびデータのまとめや図書購入、論文や著作の出版には総額200千円程度の支出を予定している。
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