2012 Fiscal Year Research-status Report
中古品と非正規品の越境交易にみる現代アフリカの消費文化に関する研究
Project/Area Number |
24720402
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
小川 さやか 国立民族学博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 助教 (40582656)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 中古品 / 非正規品 / 越境交易 / 消費 / 知的財産権 / 中国 / 東アフリカ / 山寨製品 |
Research Abstract |
中古品・非正規品は、日本をふくむ先進諸国の消費文化(使い捨て文化や、イメージや記号の消費にもとづく消費文化)とふかく関連して生みだされた特別な商品である。本研究の目的は、欧米やアジア諸国で廃棄/生産され、アフリカ諸国に輸出されているこの二つの商品が、東アフリカ諸国間を越境交易で循環し消費される過程と、この「モノの履歴」における価値変化の実態を、現地調査を通じて明らかにすることにある。また、そこから従来の西欧中心的な消費文化論を、「廃棄から再消費」あるいは「コピーから消費」の世界から再考し、文化人類学の立場から新たな消費文化論を構想することを目指している。 本年度は、『民博通信』(国立民族学博物館)および学術雑誌『アスティオン』(サントリー文化財団)に古着の流通のしくみとアフリカにおける古着の消費について考察した小論・論文を発表した。ここでは古着輸入の是非をグローバルな経済関係に留まらず、現地の商人および消費者によるミクロな実践に即して検討する必要性を指摘した。また『発展途上国とリユース報告書』(小島道一・福西隆弘編・アジア経済研究所)に、タンザニアの消費者による中古衣料品と中国・東南アジア製衣料品の購買行動を、両製品の品質面や供給システムの違いに着目して比較分析した論文を発表した。 国際学会・シンポジウム等での発表として、7月に南アフリカで開かれた世界史学会において「セカンド・ハンドの歴史」に関する分科会をおこない、中古衣料品の流通システムの変容について発表したほか、2月に国立民族学博物館において国際シンポジウム『布を使う人、布に包まれる身体』(機関研究プロジェクト『布と人間の人類学的研究』(代表:関本照夫))において、アフリカにおける中古衣料品と非正規品(ぱちもん)の流通・消費に関する研究発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、東アフリカ諸国と中国に渡航し、フィールド調査を実施した。これまで明らかにしてきた中古品の流通を、アフリカ諸国の消費者の購買行動からから再検討することができたとともに、東アフリカ諸国間の非正規品の流通および中国からの非正規品の輸入の実態も明らかになりつつある。またアフリカ諸国の消費者が、中古品・非正規品のどちらをなぜ好むのか/消費するのかについて多角的に検討した。そこから、消費文化と私たち日本人を含む先進諸国の消費文化との連続性および非連続性を明らかにすることができた。また成果の一部を上述の通り、論文にて公開した。 また本年度は、今後の研究の礎となりうる学術的なネットワークの構築をおこなうことができた。7月には世界経済史学会で発表し、歴史的な観点から中古品の流通を研究している国内外の経済史学者と活発な意見交換を行った。アジア経済研究所の国際リユースに関する共同研究にも参加し、経済学や社会学の研究者と「再利用」の問題について議論した。2月には、ファッションや消費に焦点を当てたシンポジウムに企画から関わり、世界的に著名な古着流通の研究者であるカレン・ハンセン氏をはじめ、服飾(史)研究者との人的なネットワーク構築をおこなった。 本年度はプロジェクトの初年度にあたるため、中古品・非正規品の流通・消費の大枠を掴むこと、および分析視角の拡大に努めた。来年度以降、本年度で得られたデータ・アイデア・知見を分析・精査し、より焦点を絞った研究をしていくことで実りある成果を出していけると思っている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は、中古品と非正規品の流通・消費からアフリカの消費文化について検討することにあるが、平成24年度までにおこなったプロジェクトにより中古品の流通・消費についてはおおむね明らかにすることができたと考えている。そこで平成25年度以降は、非正規品の流通・消費に重点を置いて研究していきたい。 とくに中国の広州市におけるアフリカ人街(「チョコレート城」)を重点フィールド地に定め、アフリカ系商人の中国への進出の背景、アフリカ系商人による非正規品の買いつけ方法、中国商人との取引関係の実態、非正規品の輸送方法等をより詳細に明らかにすることを目指す。 また非正規品の流通・消費を検討するにあたり、1)研究代表を務める「現代消費文化に関する人類学的研究」(国立民族学博物館・共同研究若手)などでの討論をふまえて、消費人類学の理論的な整理を進めるとともに、2)中国人研究者を含め他分野の研究者とともに知的財産権や企業倫理に関する共同研究を実施し、制度的な枠組みに関する理論的な整理もおこなっていく予定である。 平成25年度以降には、非正規品の問題に焦点を当てた論文を積極的に出版していきたい。また研究成果の一般社会への還元をめざし、『もう一つの使い捨て文化』と題した新書を光文社より出版予定である。「既に使い古されている中古品」と「粗悪な非正規品」はアフリカにおいて、先進諸国の人びとの使い捨て文化とは異なる、いわば貧者の使い捨て文化を生みだしている。本書ではアフリカの消費文化からわれわれの消費文化を見直す切り口となる視点を提示する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度には中国におけるアフリカ系商人による非正規品の買いつけ・輸出に関する現地調査を2回計画しているほか、タンザニアでの非正規品に関する補足調査も計画している。また、国内外での学会発表も積極的に行う予定である。慶応義塾大学で開催予定の日本文化人類学会第47回研究大会、およびイギリスのマンチェスター大学で開催予定でのInternational Union of Anthropology and Ethnological Science(以下IUAES)第17回大会において既に発表が決定している。これらも現地調査及び学会参加のための旅費が必要である。 また、中国での現地調査では、中国系商人およびフランス語圏のアフリカ系商人への聞き取り調査に関して、それぞれ中国語・フランス語が理解できる調査助手を各1名ずつ雇用する予定であり、謝金が必要である。 IUAESでの発表後、他の分科会メンバーと論文集を作成する予定であり、英文校閲費が必要である。 そのほかに国立民族学博物館から立命館大学への移籍に伴い、新たな環境整備が必要となり、プリンターおよびウィルス対策ソフトを購入する。
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