2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24730026
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
西土 彰一郎 成城大学, 法学部, 准教授 (30399018)
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Keywords | ドイツ / 内部的メディアの自由 / 職能的基本権 / ジャーナリズム / デジタル化 / 編集権 / 放送の自由 / 公共放送 |
Research Abstract |
平成25年度の研究の目的は、第一に、インターネットをめぐる日本の法状況を整理したうえで、ドイツの判例・学説で唱えられている「デジタル基本権」の構造を把握し、日本法への示唆を得ること、第二に、前年度で十分に検討できなかった「内部的メディアの自由」を多角的に分析すること、そして第三に、本研究のまとめとして、内部的メディアの自由とデジタル基本権を統一的に基礎づけることのできる基本権理論を構築することにあった。第一と第二の課題は、それぞれ論文を執筆することができたものの、第三のまとめの作業は、まだ論文執筆の準備にとどまっている。 第一の課題について、まず、近年、日本の憲法学において反省されつつあるインターネット時代の通信の秘密をめぐる議論を整理した。その後、ドイツの「デジタル基本権」の判例・学説を分析し、そこで生じた疑問点を解消すべく、この概念の生みの親ともいうべきホフマン=リーム教授(前連邦憲法裁判所裁判官)の許を訪ね、インタビューを行った。そこで得た着想をも踏まえて、「デジタル基本権の位相」なる論文を執筆し、平成26年夏に公表する目途をつけることができた。 第二の課題に関して、昨年度の成果である論文「『内部的メディアの自由』の可能性」を花田達朗(編)『内部的メディアの自由』(日本評論社、2013年)に収めて公刊した一方、そこで十分に分析しきれなかった内部的メディアの自由の社会学的、組織論的基礎を前述のホフマン=リーム教授に質問することにより、「経済システムとマスメディアシステムの構造的カップリング」としての内部的メディアの自由という着想を得て、"Sinn und Bedeutung der Inneren Medienfreiheit"(仮題)というドイツ語論文を完成させ、イルメナウ大学のフェヒナー教授が編集される論文集に収めてもらう内諾を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、「デジタル基本権の位相」と"Sinn und Bedeutung der Inneren Medienfreiheit"(仮題)という論文2本を執筆し、公刊の目途をつけることができた。本研究の2本柱であるデジタル基本権と内部的メディアの自由の分析をまとめることができたという意味で、おおむね当初の研究計画を達成することができたように思われる。 前者は、「情報技術システムの機密性および完全性の保障に対する権利」として定義されるデジタル基本権により、最近批判にさらされている「通信の秘密の保護と差別的取扱の禁止により、電気通信事業者は通信の伝達のみに関わっていれば足りる」という日本の通信法制モデルが正当化されるとの見方を示すことができた。後者は、社会学のシステム理論と経営学の組織論を参考にすることにより、内部的メディアの自由の確立こそが、経済システム、政治システム、マスメディアシステムの均衡を図るうえで枢要であることを論ずることができた。ドイツの学説、実務状況に一石を投ずることができれば、と考えている。 もっとも、本研究ではジャーナリストの職能的基本権として内部的メディアの自由を把握する視点を前面に出してきたが、それと技術的基本権であるデジタル基本権といかなる形で結合しうるのか、十分に分析できなかった。技術と職能を統一的に基礎づけることのできる基本権理論を構築すべく、「プロセス的基本権」論、「自省的基本権」論などを参考にしたが、いまだに私見をまとめるには至っておらず、さらなる検討課題として残っている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、職能に定位する内部的メディアの自由と技術の機能性を規範目的とするデジタル基本権を統一的に基礎づけることのできるメディアの自由論を構築すべく、その基礎として基本権理論全体を反省する作業を続けていきたいと考えている。この研究を遂行するにあたり、現在、システム理論等の基礎理論に通暁しておられる複数の研究者とThomas Vesting, Rechtstheorie,という著作を翻訳している最中であり、それを通じてなにがしかの示唆が得られるのではないかと期待している。 さらに、当初の研究計画では明示していなかったものの、近時のメディア状況を考える際にはメディアの自由のトランスナショナル化を分析する必要があるため、この方面の研究に着手したいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の研究計画通りに、平成24年度に「内部的メディアの自由」に関する研究、平成25年度に「デジタル基本権」に関する研究を実施し、それぞれのテーマについて論文を執筆することができた。これらの研究成果を「メディアの自由の再構成」という観点から総括すべく、そのために必要なドイツのメディア法関連図書の購入を書店に発注したところ、それらの取り寄せに時間がかかっているため、未使用額が発生した次第である。 補助事業期間での研究成果を取りまとめるために必要な図書の購入に充てたいと考えている。とりわけ、「デジタル基本権」は現在のドイツにおいて盛んに議論されているテーマであり、それをフォローすることにより、平成25年度に執筆した論文の正確さを担保したい。したがって、具体的には「デジタル基本権」に関する文献の購入を中心としつつ、さらに「内部的メディアの自由」および「基本権理論」に関する書籍を購入する。
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