2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24730036
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
増田 史子 京都大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (60362547)
|
Keywords | 管轄合意 / 海上物品運送契約 / 船荷証券 / 海商法 / 商慣習 / 管轄条項 |
Research Abstract |
平成25年度は、文献調査の結果と、所属研究会等における他の研究者や業界関係者からのヒアリング等を基に、本研究課題について総合的な考察を行い、研究課題名を付した論文を含む複数の研究成果を公表した(13参照)。本年度の研究により、海上物品運送契約における裁判管轄条項(以下、単に「管轄条項」)について、暫定的ながら次の点を明らかにできたと考えている。 1.アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス等の諸外国において管轄条項の効力についてどのような評価がなされているか、また、その理論的な根拠は何かについて、紹介と検討を行った。なお、欧州諸国については、2000年の「民事及び商事事件における裁判管轄及び裁判の執行に関する規則」(以下「ブリュッセルI規則」)に関する議論を中心に扱った。検討の結果、主要海運国では管轄条項の有効性を肯定する立場が主流となっているものの合理性を疑う立場も根強く存在すること、管轄条項の効力を制限する際の理論的根拠には各法秩序の特性に応じて相違がみられることが、明らかになった。 2.海上物品運送契約において、実際にどのような管轄条項が用いられているか、運送人に対する訴えに関してこのような条項を用いることに合理性が認められるか、認められるとすればどの限りにおいてかを考察した。暫定的な結論として、このような管轄条項には、その特有の商慣習を前提として、一定の合理性があると評価した。 3.1、2の検討を踏まえて、現在の判例法理の意義を再検討し、現在の日本法の立場は一応肯定的に評価できることを示した。現行法と大きく異なる2008年の「全部又は一部が海上運送による国際物品運送契約に関する国際連合条約」(ロッテルダム・ルールズ)の関連規定は、積極的に支持できるものではないことを示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の第一の目的(すなわち、管轄条項について合意の拘束力、法政策、法の国際的調和の観点から検討することで、その有効性の根拠、近時の立法例における管轄規則の妥当性を考察し、日本法に対する示唆を得ること)については、結論は暫定的ではあるものの研究課題と同名の論文を公表したことにより、概ね達成できた(13参照)。もっとも、当初の計画で平成25年度に行うとしていた国際条約の抵触の問題については、欧州固有の要素が複雑に絡む問題であることが明らかとなり、別の観点からの検討が必要となったため、成果の公表には至っていない。 なお、研究計画を作成した当時はインタビュー等による外国法調査を検討していたところ、実際には、外国旅費は、万国海法会ダブリン・シンポジウムへの出席にあてることにした。これは、本研究を遂行する中で、法状況を適切に評価するためには、結局のところは、国際的な海上運送の実務における管轄条項の意義を適切に把握することが必要不可欠であるという認識に至ったためである。日本国内でも、欧州の立法情報及び学術情報は比較的容易に入手できたのに対し、国際的な実務の情報を収集し近時の潮流を知ることはやや困難であった。同シンポジウムへの出席により効率的に情報を収集することができた。 上記の認識の変化があったため、上記論文における検討も、単純に合意の拘束力、法政策、法の国際的調和という抽象的な観点から論点整理を行うという形ではなく、各法秩序における法的構成と実質論をより重視して行っている。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の一応の目的は概ね達成できたと考えているが、以下の課題が残っている。 1.平成25年度中は、海上物品運送取引における管轄条項の合理性という、具体的な文脈において考察を進めた。このため、日本法に対する示唆を一応は導き出したものの、それをどの程度一般化できるかは十分に検証できていない。また、この具体的な文脈では周辺的だが、国際私法上の当事者自治との関係では重要な意義を持つと思われる問題(管轄合意の独立性、管轄条項と仲裁合意との関係、管轄合意違反により訴訟競合が生じた場合の処理等)について、本年度に公表した論文においては十分に検討できていない。 2.実務的な情報の収集を通じて、近年は、荷主が運送人を訴える場合のみならず、運送人が荷主に対して訴えを提起する場合について、様々な問題が生じていることを学んだ。実際に用いられている管轄条項においても、後者を前者と区別して規定している例が多くみられる。現代では後者の文脈における検討が重要と思われるが、利害状況が前者とは大きく異なるため、平成25年度中には十分な検討を行うことができなかった。 3.外国法、特に海運実務への影響が大きいイギリス法の調査を行う中で、本研究課題を含め海上運送に関する法的問題に関して態度決定を行うには、対物訴訟や船舶単位の事故処理に関する制度のインパクトを適切に把握することが必須であることを痛感した。この検討は、これまでに得られた暫定的結論の妥当性を検証するために不可欠であると認識しているが、未だ十分な検討を行うことができていない。 1は国際民事訴訟法の基礎理論に関わる問題であることから、長期的な課題と考えたい。本研究の中では、これまでに得られた示唆と国内法上の議論との接合を図るところまでは行っておきたいと考えている。本年度は、理論上、実務上の重要性に鑑み、2及び3の側面からの検討を優先する。
|
Research Products
(5 results)