2012 Fiscal Year Research-status Report
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24730037
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Research Category |
Grant-in-Aid for Young Scientists (B)
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
玉田 大 神戸大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (60362563)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 損害賠償 / 国家責任法 / ホルジョウ定式 / 原状回復 / 金銭賠償 / 投資仲裁 / 懲罰的損害賠償 / 精神的満足 |
Research Abstract |
本年度の研究業績は以下のとおりである。 第1に、国際法上の賠償法理の根本原則であるホルジョウ定式の理論的背景について分析を行った。まずは、常設国際司法裁判所のホルジョウ工場事件判決を詳細に分析し、ホルジョウ定式が収用事案に固有の賠償問題ではなく、国際法一般に適用可能な賠償法理を提示している点を明らかにした。さらに、当時の裁判長であったアンチロッチの責任論の影響が色濃く反映している点を明らかにした。特に、アンチロッチの責任論における「懲罰」概念がホルジョウ定式に反映している点が明らかになった。今後は、「懲罰」概念を基礎として、賠償法理の全体像を理解することが可能になると考えられる。 第2に、国際法上の賠償法理の第1原則とされる原状回復について概要的な分析を行った。その結果、ホルジョウ定式では原状回復と金銭賠償が互換的な関係にあるのに対して、その後の国際法委員会(ILC)の法典化作業においては原状回復と金銭賠償、さらに精神的満足が相互補完的に用いられている点が明らかになった。この構造上の相違が、今日の賠償法理の大きな特徴であることが明らかになった。 第3に、国際投資法分野における賠償法理について分析を行った。国際投資仲裁では、近年、かなりの数の算定事案が発生しており、伝統的国際法の枠組みを超えるような判断も見られる。分析の結果、投資仲裁では精神的損害賠償が認められており、さらにその際に懲罰的損害賠償に類似の法概念が用いられていることが明らかになった。この点は、上記の「懲罰」理論との関係で今後の検討課題となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、国際法上の「完全賠償原則」(full reparation principle)の法構造を明らかにすることである。第1段階として、完全賠償原則の起源である常設国際司法裁判所(PCIJ)のホルジョウ工場事件判決で定式化された賠償原則(=ホルジョウ定式)の内容と根拠を明らかにする作業がある。第2段階として、ホルジョウ定式の理論的基盤であるアンチロッチ(Anzilotti)の責任論および賠償理論を分析する。2012年度の研究においては、上記の第1点目についてある程度の結論を得ることができた。 第1に、完全賠償原則がそれ以前の仲裁判決の基礎づけを正確には有しておらず、アンチロッチの国家責任論に過度に依拠したものであったことが明らかになった。その結果、国家実行よりも、むしろ理論的整合性を重視した内容になっていたと評価することができる。 第2に、当該理論的傾倒の根拠となる「懲罰」(punition)概念についても、アンチロッチの法理論については大枠を検討し終えることができた。なお、「懲罰」概念については、基礎法分析に加えて、国内の不法行為法の分析を踏まえて結論を導く必要がある。 第3に、ホルジョウ定式がその後の国家責任の法典化(ILC)にどのように受け継がれていくのか、という点については、原状回復の分析を行うことにより、一定程度の道筋が見えてきた。現在までの分析により、ILCの賠償論では、ホルジョウ定式とは根本的に異なり、原状回復・金銭賠償・精神的満足が水平的に連結されており、総合的に完全賠償を実現するシステムが採用されており、この点でホルジョウ定式からの脱却が見られる。 以上より、本研究内容は、おおむね順調に進展しているものと評することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は以下の研究を進める予定である。第1に、国際法上の賠償法理に関する基本原則(ホルジョウ定式)の歴史的展開を明らかにし、同定式の実証的背景を明らかにする。理論的背景として、アンチロッチの責任論の影響を指摘することはできたが、その過程で、ホルジョウ定式がその前後(1928年前後)の国家実行および仲裁判例から乖離しているのではないか、という疑問が生じてきた。そこで、この点を2013年度に掘り下げて検討することにする。アンチロッチ責任論の影響に関しては、これだけを分離して、論文の形にする予定である。 第2に、原状回復に関する国際判例分析を行う。近年、原状回復を巡って実際の訴訟例の中でも判断基準が一致していない点が明らかになってきた。すなわち、単純回復と想定回復の間で、判例の立場が一致していない。さらに、そもそもこの区別自体の意義が問われる事案も生じてきている。そこで2013年度はこの点に注目して判例分析を行う。 第3に、国際投資仲裁を素材として、引き続き、損害賠償算定の実際的な判断内容を分析する。特に、金銭算定における精神的要素(故意や過失)が如何に評価されているのかを分析する予定である。この点を明らかにした上で、国際法の一般的な算定手法との比較を行う。特に、近年の判例であるディアロ事件における国際司法裁判所の賠償額算定手法について分析を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(4 results)