2013 Fiscal Year Research-status Report
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24730037
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
玉田 大 神戸大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (60362563)
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Keywords | 賠償 / 国際法 / 原状回復 / 違法性認定 / 違法行為停止 / 金銭賠償 / 精神的損害賠償 / 懲罰的損害賠償 |
Research Abstract |
2013年度の研究の実績は以下のとおりである。 第1に、国際裁判における近年の賠償判断の傾向を分析した。特に注目すべき傾向として、違法性認定判決と違法行為停止命令がある。伝統的に国際法上の賠償(reparation, remedy)としては原状回復か金銭賠償であったが、近年の判断では、単に国際違法行為の確認を求め、当該違法行為が継続性のあるものである場合には、当該違法行為の停止を求める例が多い。この点で、国際裁判における賠償請求の目的・性質に変化が見られることが明らかになった。分析結果に関しては、論文の形で発表する予定である。 第2に、国際投資仲裁における精神的損害賠償について分析を行い、これを研究業績として発表した。国際投資仲裁は、原則として投資家(私人)の被った損害を補填することを目的としているが、本稿において、投資家が被る精神的損害の賠償について投資仲裁が新しい判断傾向を示していることを明らかにした。また、懲罰的損害賠償との類似性も見られることを示した。 第3に、国際投資仲裁における補償概念の変遷について、イタリアにおけるシンポジウムで報告を行った。伝統的投資法では、補償基準としての「適当なappropriate」補償基準が用いられていたが、現代投資法では「十分なadequate」補償基準が用いられており、投資家保護に有利な基準が用いられている。加えて、実際の投資仲裁例においても、投資家に有利な賠償判断が示されている。報告においては、こうした変遷を示しつつ、賠償判断における均衡性要素の考慮により、一定のバランスが保たれていることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国際裁判における賠償法理の中では、基本原則(ホルジョウ定式)を明らかにした上で、原状回復と金銭賠償に関しては一定程度の研究の進展があった。この点は順調に進展していると言える。また、投資仲裁の分析も進んでおり、新たに「精神的損害賠償」に分析対象を拡張しており、予想以上に研究が順調に進展していると言える。 他方で、一般国際法上の賠償法理に関しては、違法行為認定と違法行為停止命令の2つの類型が最新の判決で多用される傾向があり、その分析はまだ追いついておらず、今後の課題として残った。さらに、一般的利益に基づく提訴(個別的な損害を受けていない国が違法認定を求めて提訴する形態)についても新しい動向が見られる(マーシャル諸島による核兵器保有国に対する提訴)。こうした傾向も踏まえて、研究対象を微修正する必要がある。 また、国際司法裁判所の新しい動向として、金銭賠償命令に加えて実際に金銭賠償額を算定する判決(2012年ディアロ事件判決)が出た。国際司法裁判所が賠償額算定に踏み込む例は従来はほとんどなく(最初の事例であるコルフ海峡事件以来)、当該判決を詳細に分析する必要がある。同時に、当該判決は精神的損害賠償の算定を行っており、他の国際人権裁判所における賠償額算定との比較検討が必要となる。
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Strategy for Future Research Activity |
第1に、国際裁判(主に国際司法裁判所)の最新判例を踏まえて、国際法上の賠償法理の全体枠組みを捉えなおす。特に、原状回復と金銭賠償を中心に理解されてきた賠償法理に対して、近年の新しい傾向として、サティスファクション、違法性認定、違法行為停止命令という抽象的損害賠償命令が多用されつつある点を理論的に説明する必要がある。 第2に、投資仲裁における賠償法の全体枠組みを検討する。投資仲裁では主に金銭的損害の補填が中心的に考えられてきたが、その他にも精神的損害賠償や特定履行なども認められつつあり、これを踏まえた賠償法理の構築が求められる。 第3に、賠償算定手法についても分析を行う。国際司法裁判所では、2012年のディアロ判決(賠償判決)で珍しく金銭賠償を命じ、さらに具体的な賠償額を設定した。これを分析することによって、賠償額算定についての分析を行う予定である。
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